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【作品背景】真の美しさとは「美女と野獣」(ボーモン夫人)

フランス文学

「真の美しさは、目には見えないもの」時を超えて愛されるフランス児童文学の名作。

みなさん、こんにちは。めくろひょうです。

今回は、「美女と野獣」(ボーモン夫人)の作品背景をご紹介します。

あらすじ

裕福な商人は、仕事の帰り道、末娘ベルに頼まれた土産として、とある城に咲いていたバラを無断で一枝折ってしまう。すると城の主である醜い野獣が怒って現れ、商人に告げる。「娘を身代わりに差し出せばお前の命を助けてやろう」と。帰宅した父親からその話を聞いたベルは、父親を救うため、自ら野獣の城に向かう。最初は野獣を恐れていたベルだったが、やがて、野獣の優しさと誠実さに触れて、彼女の心に変化が…。

作品の詳細は新潮社のHPで。

『美女と野獣』 ボーモン夫人、村松潔/訳 | 新潮社
裕福な商人の末娘ベルは、とびきりの美貌と優しい心根の持ち主。ある日、父親が見るも恐ろしい野獣に捕えられると、彼女は身代わりを買って出た。ベルに恋をした野獣は、正直さに心を打たれて彼女を家族の許に返すが、喪失の悲しみに身を

ジャンヌ=マリー・ルプランス・ド・ボーモン

1711年、フランス北部ノルマンディ地方のルーアンで生まれました。芸術家だった父親の影響もあり、幼い頃から読書と学問に親しみました。11歳の時に母親を亡くし、その後は妹とともに修道院で教育を受けました。その修道院で10年ほど過ごし、1737年、ダンサーのアントワーヌ・マルテールと結婚。女の子を出産しました。しかし夫婦生活は長くは続かず、ボーモンという男性とともに、ロンドンに渡ります。正式に結婚した記録は残っていませんが、その頃からボーモン夫人と名乗るようになりました。

家庭教師や雑誌の編集を手掛けながら、1756年、教育書『こどもの雑誌』を出版します。この作品は、家庭教師として働いた経験を活かし、貴族の娘として必要な倫理観や教養を身につけさせるために書かれたものでした。数か国語に翻訳され、教育書としては異例の売れ行きになりました。そこに収録されていた作品のひとつが『美女と野獣』です。

その後、ボーモンと別れ、元スパイのトマ・ピションと生活をともにしますが、1763年、ピションを残し、娘とともにフランスに帰国します。娘夫婦や孫と暮らしながら、『こどもの雑誌』の改訂など、執筆活動を続け、1780年、69歳で亡くなりました。

『こどもの雑誌』とボーモン夫人が目指したもの

『こどもの雑誌』は、少女たちに寓話などを通して、謙虚さ、敬虔さ、誠実さ、勤勉さを学び、当時の女性にとっての理想像である良妻賢母への道を示すものでした。

家庭教師のボンヌ女史が教え子の少女たちに語り掛ける構成になっています。宗教、道徳、地理、歴史から自然科学に至るまで、幅広い分野を少女たちは学んでいきます。

『こどもの雑誌』が出版された当時のフランスは、ルイ15世の治世で、ヴォルテール、モンテスキュー、ルソーらによる啓蒙思想が急速に広まっていった時代です。女性に対する教育の機会が限られていた中で、寓話などを織り交ぜながら、わかりやすく書かれた少女向けの教育書なのです。

この作品は、フランスのみならず、他のヨーロッパ諸国でも翻訳・出版され、多くの家庭や教育機関で使われるようになりました。

ヴィルヌーヴ夫人

現在、主に知られている『美女と野獣』の物語は、実はボーモン夫人が創作したものではありません。古来伝承されていた物語を、フランスの作家・ヴィルヌーヴ夫人が、1740年に発表した『若いアメリカ娘と海の物語』の挿話として描いたものが原典になっています。

 ヴィルヌーヴ夫人版は、ラ・ベル編、野獣編、妖精編の3部構成になっていて、野獣の政治的背景や妖精界の陰謀などが語られています。幻想的なおとぎ話形式でありながら、当時の貴族社会や女性の地位などに批判的な視点を含んでいる、こども向けとは言えない作品で、発表当初は注目されませんでした。

ボーモン夫人版は、大人向けの長編幻想物語であるヴィルヌーヴ夫人版から、ラ・ベル編の内容を、教育を目的として簡略化・再構成したものです。そのため、非常に読みやすく、道徳的なメッセージが明確になっています。一方、ヴィルヌーヴ夫人版は、単なるおとぎ話ではなく、複雑な物語構造と文化批評に富んだ作品であり、ボーモン夫人の簡略版とは異なる魅力を持っています。

興味のある方は、読み比べてみてはいかがでしょうか。全く違った『美女と野獣』の世界が広がっているはずです。

作品が与えた影響

この作品を知るきっかけになったのが、1991年ディズニーによって製作されたアニメーション映画である方も多いのではないでしょうか。この作品は、アニメ映画史上初のアカデミー賞作品賞ノミネート作品であり、作曲賞と歌曲賞を受賞しました。さらに、2017年にはエマ・ワトソン主演によって実写化されました。どちらも、ボーモン夫人版をベースにしながら、ラブストーリーに翻案されています。

映画以外にも、童話をはじめとする翻案文学、テレビドラマ、バレエ、オペラ、ミュージカルなど、様々な形でこの作品に触れることが出来ます。世界中の人たちに対して普遍的な魅力を持ったコンテンツと言えるでしょう。

真の美しさとは

女性に対する教育が極めて制限されていた時代。作家という枠を超え「女性にも学ぶ権利がある」という信念を貫いた、教育的文学の先駆者、ボーモン夫人。

「愛とは何か」「真の美しさとは何か」
ボーモン夫人が込めた、感情と知性の調和。

『美女と野獣』が、ただのロマンチックなおとぎ話ではなく、時代を越えて愛され続ける理由は、そこにあるのかも知れません。

以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。

ヴィルヌーヴ夫人版

参考文献

ルプランス・ド・ボーモン夫人「美女と野獣」の特質―― 女子教育とおとぎ話 ―― 田中 理紗

美大の中のフランス文学――『美女と野獣』をめぐって 青柳りさ

映画化作品

ディズニー製作アニメーション映画 1991年アメリカ映画

監督:ジャン・コクトー 1946年フランス映画

監督:ビル・コンドン 主演:エマ・ワトソン 2017年アメリカ映画

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