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【作品背景】想像できることは実現できる「八十日間世界一周」(ヴェルヌ)

フランス文学

八十日間で世界一周が出来る?英国紳士フォッグ氏は無謀な賭けをして、執事パスパルトゥーとともに旅立つが。

みなさん、こんにちは。めくろひょうです。

今回は、SFの父とも呼ばれるジュール・ヴェルヌの代表作『八十日間世界一周』において、主人公フォッグ氏がたどった世界一周のルートを、当時の世界情勢をふまえて、確認してみたいと思います。

あらすじ

ロンドンの紳士クラブに出入りしている紳士フォッグ氏。クラブ内で「インドに新しい鉄道が設けられたことによって80日で世界一周が出来るようになった」という新聞記事が話題になる。出来る出来ないで賭けになり、自ら出来ることを証明するべく、フォッグ氏は執事パスパルトゥーをともなってロンドンを発つ。八十日間世界一周の旅が始まった。

作品の詳細は、光文社古典新訳文庫のサイトから。 作品紹介文が読書欲をそそります。

八十日間世界一周(上) - 光文社古典新訳文庫
謎の紳士フォッグ氏は、80日間あれば世界を一周できるという賭けをした!極上のタイムリミット・サスペンス。

世界一周とは

どのようなルートを「世界一周」と呼ぶのか調べてみました。

手段別
 船によるもの
  スエズ運河とパナマ運河の両方を通る
 飛行機によるもの
  すべての子午線を通過して出発地に戻る。但し距離36,787.559 km(北回帰線の長さ)以上のコース

ルート別
 全ての子午線を横切って出発地に戻る
 五大陸全てを経由して出発地に戻る
 南極点と北極点を経由する

等々、様々ですね。

この作品では、太平洋と大西洋を各々1回のみ渡って出発地に戻るというオーソドックスな定義を採用しています。

ちなみに、初の世界一周を成し遂げたのは、かのマゼラン率いるスペイン艦隊といわれています(但しマゼラン自身は航海中に死亡)。1522年のことです。

日本は室町時代、織田信長が12歳の頃です。

旅のルート

インドに新たに鉄道が設けられ計算上では80日で世界一周ができる。」という新聞記事を目にしたフォッグ氏は、実現可能かどうか仲間たちと賭けをして、可能であることを証明するべく、自ら旅に出ます。

1872年10月2日ロンドンを出発した後のフォッグ氏のルートは下図の通りです。

白地図専門店(https://www.freemap.jp/)の白地図を使用し投稿者が作成

光文社古典新訳文庫版には、フォッグ氏の手帳に基づいた、より詳細な地図の記載があります。

当時の世界情勢

フォッグ氏がこの旅に出た頃、世界の情勢はどうなっていたのでしょうか。

ヨーロッパ

 近代国家が続々と樹立されアフリカ大陸をはじめ植民地政策を推し進めていた

アメリカ

 南北戦争が終結し強力な統一国家に

ちなみにアジアでは、

 中国・・・アヘン戦争でイギリスに敗れ香港はイギリス領に
 日本・・・明治維新

国家の近代化が進み、工業技術の進歩も目覚ましかった時代と言えます。

だからこそ、80日間で世界一周が可能になったわけです。

80日間世界一周を可能にした主な要因

80日間での世界一周を可能にした主な要因は3つあります。

1・この旅のきっかけとなった新聞記事のインドにおけるボンベイ(現ムンバイ)~カルカッタ間の鉄道整備

イギリスは1858年にムガール帝国を廃し、インドの地を直轄植民地にしました。そして生産物輸送のために鉄道網の整備を進めました。

2・スエズ運河の開通(1869年)

ヨーロッパからアジアへ行く際に、アフリカ大陸をぐるっと回りこむ必要がなくなったことが、大幅な距離および時間短縮になったと考えられます。

3・アメリカ大陸横断鉄道(カリフォルニア州サクラメント~ネブラスカ州オマハ間)の開通(1869年)

ゴールドラッシュによる西部開拓の進展、南北戦争を経て、強力な統一国家となったアメリカは工業化を推し進めました。アメリカ大陸を横断する鉄道輸送路の整備は急務だったのです。

まとめ

近代化・工業化が世界中で進んでいる状況の中で発表されたこの作品は、当時の人々の夢や希望を詰め込んだものだったのではないでしょうか。

時間との戦いにハラハラさせられるとともに、主人公フォッグ氏・執事のパスパルトゥーをはじめ、愉快な登場人物たちが、場面場面で、読者を楽しませてくれます。秀逸な冒険小説です。

この作品は1956年にアメリカで映画​化され、作品賞をはじめ5部門でアカデミー賞を受賞しました。

映画をご覧になったことがない方でも、テーマ曲「Around the World」は耳にしたことがあるのでは。

フォッグ氏を追う

この作品出版から16年後の1889年、フォッグ氏の記録に挑んだ若きアメリカ人女性記者たちがいます。片や東回りで、片や西回りで、フォッグ氏の記録を更新すべく、旅に出ます。

私はまだ読んでいないのですが、彼女たちの旅を追ったノンフィクション作品が出版されています。

この作品を紹介した、日本経済新聞の記事が秀逸です。
https://www.nikkei.com/article/DGXDZO63759680X01C13A2MZC001/

みなさんも、フォッグ氏と一緒に、世界一周の旅に出かけませんか?

以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。

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