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【作品背景】どこで間違えたのか「女の一生」(モーパッサン)

フランス文学
Photo by Ilnur Kalimullin on Unsplash

美しいノルマンディー地方を舞台に、夢と希望に満ち溢れた純真無垢な少女ジャンヌの、新しい生活が始まる。しかし…。

みなさん、こんにちは。めくろひょうです。

今回は、「女の一生」(モーパッサン)の作品背景をご紹介します。

あらすじ

修道院で教育を受けた男爵令嬢ジャンヌ。実家に戻り、これからの人生に夢と希望をふくらませる。美貌の子爵と恋に落ち、めでたく結婚。素晴らしい結婚生活を思い描いていたのだが。

これでもか、と降り注ぐ不幸な出来事。美しいノルマンディーの自然を見事に描写する文章。フランス自然主義を代表するモーパッサンの長編小説。

作品の詳細は、新潮社のHPで。

モーパッサン、新庄嘉章/訳 『女の一生』 | 新潮社
修道院で教育を受けた清純な貴族の娘ジャンヌは、幸福と希望に胸を踊らせて結婚生活に入る。しかし彼女の一生は、夫の獣性に踏みにじられ、裏切られ、さらに最愛の息子にまで裏切られる悲惨な苦闘の道のりであった。希望と絶望が交錯し、

ギ・ド・モーパッサン

1850年、フランス北部ノルマンディー地方のブルジョア階級の家に生まれました。

バカロレア(高等学校教育修了を認定する国家試験)資格を取得後、パリ大学法学部に進学します。しかし進学直後に普仏戦争(ドイツ統一を目指すプロイセンと、それを阻もうとするフランスとの戦争。プロイセンが勝利しドイツ帝国が成立。)に従軍することになり、敗戦を経験します。

戦後は役所勤務のかたわら、親族の知人であった作家フローベルの知己を得、短編小説を執筆するようになります。ゾラやツルゲーネフといった自然主義作家たちとの交流を経て発表した「脂肪の塊」が評価され、その後も精力的に中短編小説を発表します。職を辞し、作家としての地位を固めていったモーパッサンが1883年に初めて手掛けた長編小説、それが「女の一生」です。

Guy de Maupassant
パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.

主人公ジャンヌをはじめとする登場人物たちの生活が赤裸々に描かれているスキャンダラスな内容もあり、ベストセラーになりました。また、ロシアの文豪トルストイも高く評価したといわれています。

故郷ノルマンディーの海、パリのセーヌ河、水辺を愛したモーパッサンは、執筆活動の合間を縫って旅行にも出掛け、地中海を自分のヨットで楽しんだそうです。(地中海航海の様子は旅行記「水の上」として発表されています。短編「水の上」とは別。)

自由恋愛主義者で、女性との交際も多かったようですが、生涯結婚はしませんでした。

大の「エッフェル塔嫌い」で、エッフェル塔を見ずに過ごすため、塔のレストランで食事をしたというエピソードも残っています。

Image by Pexels from Pixabay

若い頃から病気に苦しんだモーパッサンですが、40歳を過ぎた頃から精神を病み、自殺未遂を起こします。入院し回復を目指しますが、1893年、42歳の生涯を終えました。

男女差別と離婚制度

※一部ネタバレを含みます。ご注意ください。

19世紀フランスにおいて、女性の立場は弱く、特に上流階級では、「女性は男性の所有物」という考え方が主流でした。

ジャンヌも、結婚するまでは父親の、結婚してからは夫の、息子が生まれてからは息子の言うことに従って生きていきます。

また、「ろくでなしの夫なら離婚してしまえばいいのに」と思う方もいるかも知れません。私も読み進めながらそう思いました。ですが、当時のフランスでは離婚ができなかったのです。1816年から1884年まで、(一部例外を除き)法律で離婚が禁じられていました。「世間体を気にして」だけではなく、法律にもジャンヌは縛り付けられていたのです。

ある人生

「女の一生」の原題は「Une vie」です。

不定冠詞+「人生」で、直訳すれば「ある人生」といった感じでしょうか。日本語タイトルの「女の」を意味する単語はありません。また、主人公ジャンヌが亡くなるまでを描いているわけではないので、「一生」でもありません。

Guy de Maupassant’s Une Vie
パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.

この作品を日本で最初に訳した作家・広津和郎は、フランス語版ではなく、既に流通していた英語版を訳したのです。英語版のタイトルは「A woman’s life」。

こうして「女の一生」というタイトルが生まれました。

ささやかな真実

「世の中って、人が思うほどいいものでも悪いものでもありませんね」ロザリーは言います。

自業自得と思ったりもしますが、貴族の女性が、自由に考えたり行動したりできなかったという時代背景を考慮すれば、ジャンヌを責めることはできません。

Image by Marie Sjödin from Pixabay

事件が起きるたびに千々に乱れるジャンヌの心。瑞々しく豊かな言葉で綴られるノルマンディーの自然。副題に「ささやかな真実」とつけられた意味を感じながら、文豪モーパッサンの魅力を堪能してみてください。

ちなみに私は、物語終盤の「屋根裏のシーン」が好きです。

以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。

光文社古典新訳文庫版の巻末に掲載されている訳者・永田千奈氏による解説がとても分かりやすいです。

映画化作品

監督ステファヌ・ブリゼ、主演ジュディット・シュムラで、2016年フランス・ベルギー合作で製作されました。

第73回ヴェネツィア国際映画祭でFIPRESCI賞を受賞。

モーパッサンについて詳しく知りたい方は、フランス文学の専門家・足立和彦氏による下記HPが大変参考になると思います。

モーパッサンを巡って
フランスの作家、ギ・ド・モーパッサンに関するサイト. 作品の翻訳、紹介.

【参考文献】

19世紀フランス文学における結婚

http://pweb.sophia.ac.jp/hsawada/conseils/mariage.pdf

「女の一生」をめぐる言葉の差時代の差

https://mitaka-sportsandculture.or.jp/_files/00003469/kanpou_5.pdf

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