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【作品背景】無意味な日常。そして「日はまた昇る」(ヘミングウェイ)

アメリカ文学
Image by Jody Davis from Pixabay

今日も繰り返される、楽しいけれど、意味のない不毛な日常。

みなさん、こんにちは。めくろひょうです。
今回は、「日はまた昇る」(ヘミングウェイ)の作品背景をご紹介します。

あらすじ

アメリカの新聞社に所属するジェイク・バーンズは、特派員としてパリに滞在していた。妻と離婚しパリにやってきたロバート・コーン。第一次世界大戦で恋人を失ったイギリス人女性ブレット・アシュリー。ジェイクの友人ビル・ゴードン、ブレットの新しい恋人マイク・キャンベルが加わり、舞台は、サン・フェルミン祭に沸く、灼熱のスペイン・パンプローナに。
将来への希望を失ったロストジェネレーション(自堕落な世代)の生き様を描いたヘミングウェイの代表作。

作品の詳細は新潮文庫のHPで。

ヘミングウェイ、高見浩/訳 『日はまた昇る』 | 新潮社
禁酒法時代のアメリカを去り、男たちはパリで“きょうだけ”を生きていた――。戦傷で性行為不能となったジェイクは、新進作家たちや奔放な女友だちのブレットとともに灼熱のスペインへと繰り出す。祝祭に沸くパンプローナ。濃密な情熱と

アーネスト・ミラー・ヘミングウェイ

1899年、アメリカ・シカゴ郊外の村オークパークで生まれました。医師であった父親は活動的な人物で、狩りや釣り、ボクシングなどを息子に教えたそうです。

高校卒業後の1918年、赤十字所属員としてイタリアの戦線に派遣され、第一次世界大戦の戦場を体験します。

戦後は、カナダ・トロントの地方紙記者の職を得て結婚。1922年頃から、特派員としてパリに滞在しました。そこで芸術家ガートルード・スタインと出会い影響を受け、本格的に小説を書き始めました。

Image by Anne and Saturnino Miranda from Pixabay

パリ滞在中に、妻ハドリーや友人たちとともにスペインのパンプローナをたびたび訪れ、サン・フェルミン祭や闘牛を楽しみました。この時の出来事をベースに「日はまた昇る」を執筆し、1926年に出版しました。

シンプルな文体や生き生きとした会話で構成されたこの作品は、リアルタイムなアメリカの若者を描き出し、若い世代に圧倒的な支持を受け、処女長編でありながら、大成功を収めました。

男性たちは、ジェイクの口ぶりを真似、女性たちは、ブレットのファッションを真似したそうです。

1928年、アメリカに戻り、フォロリダ・キーウェストに居を定めます。ボクシングや釣りに精を出したり、ヨーロッパやアフリカを旅行したりと、精力的に動きながら、「武器よさらば」「誰がために鐘は鳴る」といった長編作品や多くの短編作品を発表し、人気作家としての地位を確立していきました。

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第二次世界大戦が始まると、ある時は特派員として、ある時は軍人として戦争に関わりました。

1952年に発表した「老人と海」は高い評価を受け、1954年ノーベル文学賞を受賞しました。

その年、飛行機事故に遭い、後遺症に苦しむことになります。身体の不調が精神の不調につながり、1961年、銃によって自らの命を絶ちました。

ロストジェネレーション

パリに滞在していたヘミングウェイに、多大な影響を与えた人物にガートルード・スタインがいます。美術収集家であった彼女は、芸術家たちが集うサロンを開き、ヘミングウェイにもアドバイスをしていたそうです。

彼女がヘミングウェイに投げかけた言葉

「You are all a lost generation.(あなたたちはロストジェネレーションなのよ。)」

が一連の作家たち、さらには世代を表現するキーワード「ロストジェネレーション」の始まりと言われています。

ヘミングウェイがこの台詞を「日はまた昇る」の巻頭に記載したことによって、広く知られるようになりました。

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日本語では「失われた世代」と訳されることが多いですが、本来意味していることは、好景気に沸くアメリカを背景に快楽に溺れる「自堕落な世代」、あるいは、第一次世界大戦の戦禍による従来の価値観が否定されるなど、将来に希望を見いだせなくなった「迷える世代」です。

ヘミングウェイと同じくロストジェネレーションを代表する作家フィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」の作品背景はこちら。

パンプローナのサン・フェルミン祭

主人公ジェイクが仲間たちと訪れるサン・フェルミン祭は、スペイン・ナバーラ州の州都パンプローナで、7月6日から7月14日にかけて開催されるお祭です。
中でもエンシエロ(牛追い)が有名で、牛追い祭とも呼ばれています。みなさんもテレビで様子を見たことがありますよね。

現在では、世界中から観光客が集まるようになりましたが、「日はまた昇る」の舞台として描かれたことも大いに影響しているようです。

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ヘミングウェイは1923年の初訪問以降、何度もこの街を訪れています。
エンシエロの終着点となるのがパンプローナ闘牛場。世界屈指の収容人数を誇るスペインを代表する闘牛場です。ヘミングウェイは闘牛の観戦も好きだったようで、闘牛の解説書を出版したほどです。

パンプローナ闘牛場そばの通りは「ヘミングウェイ通り」と名付けられ、ヘミングウェイの像が建立されています。スペインの人たちにも愛されていることがわかりますね。

日はまた昇る

第一次世界大戦において戦場にならなかったアメリカの経済は、軍事産業をはじめとして、活況を呈します。対照的にヨーロッパは、戦禍からの復興途上であり、米ドルは、仏フランに対して高い価値を持つようになっていました。そのため、アメリカの若者たちは、芸術の都パリに勇躍乗り込んでいったのです。

ジェイクやブレットが、日々酒を飲んで遊んでいられるのは、そのような経済的背景があったからです。

ヘミングウェイ自身は、パリ滞在中真剣に作品に向き合い、快楽に溺れる若者たちの不毛な日常を「日はまた昇る」というタイトルで表現したのです。

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「日はまた昇る」というタイトルは、何か暗い出来事に希望の光が差すような感じがしますが、「不毛な日常が今日も繰り返される」ということを表現しています。

極限まで言葉が削り取られた文章。降り注ぐ灼熱の太陽。ハードボイルドの先駆者ヘミングウェイの溢れる若さを感じてください。

以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。

参考文献

『日はまた昇る』とお金 森本恒平
『日はまた昇る』における脱現実への道 新井哲男

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