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【作品背景】20世紀のおとぎ話「動物農場」(オーウェル)

イギリス文学
Photo by Lucia Macedo on Unsplash

ソ連共産主義に対する批判を込めた20世紀のおとぎ話。

みなさん、こんにちは。めくろひょうです。
今回は、「動物農場」(オーウェル)の作品背景をご紹介します。

あらすじ

イギリス・ウィリンドン。ジョーンズ氏が経営する農場では、家畜たちが、老いた豚メージャー爺さんの唱える「動物主義」に賛同し、反乱の機をうかがっていた。メージャー爺さんの遺志を継いだ若き豚スノーボールとナポレオンは、満を持して反旗を翻し、ジョーンズ氏を追放。「すべての動物は平等」の精神で農場を「動物農場」と改め、動物たちによる自治を始めるが。
ソ連共産主義に対する批判を込めた20世紀のおとぎ話。

作品の詳細は角川のHPで。

動物農場
文庫「動物農場」のあらすじ、最新情報をKADOKAWA公式サイトより。

ジョージ・オーウェル

ジョージ・オーウェルことエリック・アーサー・ブレアは、1903年、当時イギリスの植民地だったインド・ベンガルで生まれました。父親はインド駐在の役人でした。オーウェルが1歳の頃、母親とともにイギリスに帰国します。

幼い頃から頭脳明晰で、奨学金を給付されパブリックスクールの名門イートン校で学びました。
卒業後の1922年、当時イギリスが支配していたインドの属国ビルマに渡り、警察官として働きます。5年ほど勤務しましたが、植民地政策に疑問を抱き、1927年イギリス本国に帰国。退職しました。

パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.

帰国後、ビルマ滞在時に体験したイギリスによる植民地支配の様子を批判的に描いた「ビルマの日々」、パリやロンドンで暮らす貧困生活者の様子を描いたルポルタージュ「パリ・ロンドン放浪記」、イギリス北部の工業地帯における労働者の姿を取材した「ウィガン波止場への道」など、当時の社会問題をテーマに執筆活動をおこないました。

また、内戦状態にあったスペインへ渡り、反乱軍に対抗する政府側・人民戦線の兵として戦争に参加し、その様子を「カタロニア賛歌」にまとめました。

1939年に第二次世界大戦が始まると、イギリス陸軍に志願しましたが入隊を許可されず、ホームガード(民兵)に従事。BBC(イギリス国営放送)で番組を制作したり、新聞社の特派員として戦地の様子を取材したりと、戦争に関わり続けます。

Photo by Florencia Viadana on Unsplash

1945年、ソ連におけるスターリンの独裁政治体制を批判した「動物農場」を発表。世界中で評判となりました。
その後、結核療養のためスコットランドの孤島に移り、「1984年」を執筆。
ロンドンに戻って入院するも、1950年、肺動脈破裂により亡くなりました。46歳でした。

登場人物(動物)

みなさんご存知かと思いますが、主な登場人物が誰をモデルにしているのか、簡単にまとめておきます。

牧場主であるジョーンズ氏を始めとする人間たちは、当時のロシアにおける支配階級(ロシア帝国の王侯貴族・地主・資本家)。豚は共産党の指導者たち、犬は秘密警察、他の動物たちは労働者階級です。

メージャー爺さん(豚)

動物の自由と平等を理想に掲げ「動物主義」を提唱する。
モデルはウラジーミル・レーニン。
1917年に十月革命を成功させ、初の社会主義国家であるロシア・ソビエト連邦社会主義共和国を樹立。後にソビエト連邦の成立を指導。彼の思想はマルクス・レーニン主義として世界中の社会主義国に影響を与えた。

ナポレオン(豚)

メージャー爺さん亡き後、スノーボールとともに動物たちを指揮し、革命を成功させる。その後、運営方針で対立したスノーボールを追放し改革を進める。反対を唱える動物たちを粛清し、恐怖政治をおこなう。
モデルはヨシフ・スターリン。
レーニンの死後、レフ・トロツキーとの後継者争いに勝利し、ソ連最高指導者とし君臨。改革を進めると同時に、反対派には厳しい弾圧を加え、国民に多数の犠牲者を出した。

スノーボール(豚)

メージャー爺さん亡き後、ナポレオンとともに動物たちを指揮し、革命を成功させる。人間との戦いでは勇猛果敢さを見せ、他の動物たちからの信頼も厚い。運営方針で対立したナポレオンに追放される。
モデルはレフ・トロツキー。
十月革命後、軍の創設者および指揮官として活躍するも、政策を巡って多数派と対立して敗れる。ソ連共産党を除名された後、メキシコに亡命するも、ソ連のスパイに暗殺された。

その他にも、見て見ぬふりをするロシア知識人、ロシア正教会、共産主義青年団、スターリンによる意図的な飢饉に苦しむウクライナ、イギリス、ナチス・ドイツなど、個人だけでなく、団体や国家をモデルにした人物(動物)たちも登場します。

共産主義への痛烈な批判

全員が納得する形で制定された掟だったはずが、知らず知らずのうちに修正され、気が付いた時には、自由が失われ、一部の者に権力が集中する形に変貌していった掟。
スターリンを中心としたソ連政府による共産主義が、どのように民意を封じ込めていったかを、オーウェルはナポレオンに代表される豚たちの活動に投影しています。
子供でも読める、動物が主人公のおとぎ話という形をとりながら、ソビエト連邦を理想の国とみなすような「ソビエト神話」へ警鐘を鳴らす、恐ろしい作品です。

Photo by Marjan Blan | @marjanblan on Unsplash

「動物農場」が完成した1944年2月時点では、作品内で批判したソ連が、まだイギリスの同盟国だったため、なかなか出版できませんでした。しかし、戦争による紙不足が解消された翌年には、西側諸国による反ソ連の機運が高まっていたこともあり、イギリス、次いでアメリカで出版されると、好評を博しました。

全体主義的国家の恐怖を描いた代表作「1984年」への序曲ともいえる「動物農場」。政治や社会に鋭い批判の目を向け続けたオーウェルの思いを感じてみてください。

以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。

映画化作品

イギリスで最も影響力のあるアニメーションスタジオ・ハラス&バチュラー・カートゥーン・フィルムズが1954年に製作したアニメーション作品。日本上陸にあたっては、ジブリ美術館がバックアップ。

映画『動物農場』公式サイト
伝説のH&Bが半世紀前に描いた、永遠不変の権力の寓話。ジョージ・オーウェル原作『動物農場』、ついに日本解禁。公式サイトでは作品解説から、最新情報までお届けします。

参考文献

ジョージ・オーウェル研究 ―「動物」表象と「感覚」描写を中心に― 山口梓

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