19世紀のロンドン。庶民の暮らしは、貧しく凄惨なものだった。無力だが誠実な孤児の少年オリヴァーの周囲には、悪人と善人が。
みなさん、こんにちは。めくろひょうです。
今回は、「オリヴァー・ツイスト」(ディケンズ)の作品背景をご紹介します。
あらすじ
救貧院で育った孤児オリヴァー・ツイスト。町の葬儀屋に売られて働くことになるが、兄弟子のいじめに遭い、ロンドンを目指して逃亡する。
ロンドンで、ある少年と出会うが、彼は窃盗団の一味だった。
無力だが誠実なオリヴァーに次々と襲い掛かる悪の手。彼に救いの手を差し伸べる善良な人たち。社会に翻弄されながらも立ち向かっていく、オリヴァーの運命は。
稀代のストーリーテラー・ディケンズ、初期の傑作。
作品の詳細は新潮文庫のHPで。
チャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズ
1812年、イギリス・ハンプシャー州のポーツマス郊外で生まれました。父親が海軍に勤務していたため、幼い頃に何度か転居しています。
中流階級ではありましたが裕福だったわけではなく、きちんとした教育を受けられませんでした。1824年父親が破産。監獄に収監されてしまいました。ディケンズは靴墨工場で働くことになりましたが、ひどいいじめにあったそうです。
その後は、法律事務所の事務員や法廷の速記記者などを経験し、20歳を過ぎた頃、新聞記者になりました。記者として働きながら雑誌にエッセイを投稿するなど、執筆活動を始めました。
結婚を経て、1837年、自らが編集長をつとめる雑誌で「オリヴァー・ツイスト」の連載を開始。ディケンズの人気は不動のものとなりました。
子供たちに人気の高い「クリスマス・キャロル」、自伝的作品「デイヴィッド・コパフィールド」、フランス革命を描いた「二都物語」、集大成ともいえる晩年の傑作「大いなる遺産」など、社会的なテーマを包含した作品を次々に発表しました。
また、晩年は慈善事業や講演・公開朗読などの活動も、精力的におこないました。
1870年、ケント州の自宅で、脳卒中により亡くなりました。58歳でした。
ウェストミンスター寺院に埋葬されたディケンズの墓碑銘は、このように刻まれています。
“He was a sympathiser to the poor, the suffering, and the oppressed; and by his death, one of England’s greatest writers is lost to the world.”
「彼は、貧しい人々、苦しんでいる人々、虐げられている人々の共感者であり、彼の死によって、イギリス最大の作家の一人が世界から失われたのである。 」
救貧院
オリヴァーが育った救貧院とは、貧困者に提供される住居で、10世紀頃から設置されていたそうです。修道院などが運営にあたっていました。
しかし、宗教改革による「働かざる者、食べるべからず」という考え方の広まりや貧困者の増加、また、救貧法という法律が制定されて、運営費用が寄付から税金に変わったことにより、救貧院は、慈善事業から「貧困者の監獄」と呼ばれるような強制労働の場になっていきました。
ディケンズはそのような現状を問題視し、「オリヴァー・ツイスト」におけるひとつのテーマとして盛り込んだのです。
物語冒頭、オリヴァーに対する教区吏バンブルの酷い仕打ちは、当時の救貧院の様子をリアルに描き出しています。
ディケンズの作品に対する評価
自らも恵まれない幼少期を過ごしたことから、ディケンズの作品は、下層階級(弱者)を主人公とし、社会(強者)の在り方に疑問を投げ掛けるという筋立てが多く見られます。そのような視点が、大衆に支持された理由なのでしょう。
しかし、「芸術のための芸術」を標榜する芸術至上主義的な当時の文壇は、「内容が通俗的だ」「(雑誌や新聞で連載した作品は)物語が進んでいくと話のつじつまが合わなくなっている」などと批判しました。
それでも、大衆におけるディケンズの人気は衰えることなく、現在でも、イギリスの国民的作家として位置付けられています。
悪人と善人
もがけばもがくほど悪の世界に飲み込まれてしまうオリヴァー。
計算高い窃盗団の頭フェイギン。根っからの悪党サイクスと、良心を持ちながら彼から離れられないナンシー。
オリヴァーに、救いの手を差し伸べる紳士ブラウンロー氏と、無償の愛を注いでくれるメイリー夫人とローズ。
様々な登場人物の思惑が交差する、手に汗握るストーリー展開。明らかになるオリヴァー出生の秘密。
今もなお大衆を惹きつけるイギリスの国民的作家ディケンズ、初期の傑作を堪能してください。
以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。
映像化作品
オリヴァー・ツイスト(1948年イギリス映画 監督:デイヴィッド・リーン)
名優アレック・ギネスがフェイギン役を演じたモノクロ作品。
オリヴァー!(1968年イギリス・アメリカ合作映画 監督:キャロル・リード)
ミュージカルを映画化。第41回アカデミー賞において、作品賞・監督賞・編曲賞・録音賞・美術賞+(振付に対する)名誉賞の6部門を受賞。
オリヴァー・ツイスト(2007年イギリス・BBC制作のテレビドラマ)
参考文献
ディケンズについて、より詳しく知りたい方は、ディケンズ・フェロウシップ日本支部のHPを覗いてみてください。情報が満載です。
ヴィクトリア時代ロンドン・ハックニー地区における衛生改革の展開 永島剛
OliverTwistがイギリス社会に与えたもの 中村さくら
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