【作品背景】わずか13時間の物語「ダロウェイ夫人」(ヴァージニア・ウルフ)

イギリス文学
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わずか13時間の物語。パーティの準備に追われるダロウェイ夫人の胸に去来する様々な想い。ビッグベンの鐘の音が鳴り響く。

みなさん、こんにちは。めくろひょうです。今回は、「ダロウェイ夫人」(ヴァーニジア・ウルフ)の作品背景をご紹介します。

あらすじ

第一次世界大戦終戦から間もない1923年6月の水曜日、ロンドン。その日の夜に開催するパーティの準備に追われるダロウェイ夫人。彼女の胸に様々な想いが去来。老いを感じ始めた自分。突然現れた元カレへのくすぶる想い。戦争の後遺症に苦しむ青年。ビッグベンの鐘の音が鳴り響き、パーティが始まる。

作品の詳細は、光文社古典新訳文庫のHPを。

ダロウェイ夫人 - 光文社古典新訳文庫
花を買いに出かけたダロウェイ夫人の思いは現在と過去を行き来する。20世紀文学の扉を開いた問題作。

アデリーン・ヴァージニア・スティーヴン

1882年ロンドンで生まれました。父親レズリー・スティーヴンは著名な文学史研究者で「英国人名事典」の編集者として知られています。また登山家としても活動した人物です。母親ジュリアはインド生まれで、モデルをつとめるほどの美人だったそうです。

両親はそれぞれ再婚で連れ子があり、またふたりの間にも4人の子供がいる大家族でした。
両親の多彩な人脈や膨大な蔵書に囲まれてウルフは育ちます。

パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.

13歳の時に母を、続いて異父姉を亡くしたことにより、精神的にダメージを受けます。その後、ロンドンのキングス・カレッジ女子部で語学や歴史を学びますが、男性の兄弟たちがケンブリッジ大学に進学させてもらったことと比べて、男女の違いに悔しい思いをしたようです。

22歳の頃、父親を亡くし、入院治療を受けるほどの深刻な精神的ダメージを受けてしまいます。異父兄による性的虐待による影響もあったそうです。常に精神的に不安定な状態にありながら、文筆活動に力を注ぎました。

姉ヴァネッサとともにブルームズベリー・グループの一員として活動するとともに、小説や評論の執筆を続け、高い評価を得るようになります。「意識の流れ」などの実験的な手法で描かれた作品群によってモダニズム文学の旗手と評されるようになりました。

ブルームズベリー・グループ

ヴァージニア・ウルフと姉のヴァネッサ・ベル、その他ケンブリッジ大学の学生らによって結成されたグループが母体となり、20世紀初頭から第二次世界大戦頃までの期間に活動しました。

彼らは作品等を通じ、平和主義・自由主義の考え方を発信し、また、同性愛やオープンマリッジを肯定するなど、文化的側面でも、従来の慣習を打破する思想を発信しました。

ウルフは「女性が小説を書こうとするなら、お金と自分だけの部屋を持たなければならない」という主張からわかるように、女性の地位向上の必要性にも言及しました。

グループの主なメンバー

  • ジョン・メイナード・ケインズ(経済学者)
  • リットン・ストレイチー(作家)
  • クライヴ・ベル(美術評論家・姉ヴァネッサの夫)
  • ルパート・ブルック(詩人)
  • レナード・ウルフ(作家・ヴァージニアの夫)
  • ロジャー・フライ(美術評論家)

ヴァージニアの死​

ヴァージニアは小説の執筆とともに、多くの評論やエッセイも手掛けました。

私生活においては、反ユダヤ主義者であったにもかかわらず、ユダヤ人であるレナード・ウルフと結婚し、夫婦で出版社を立ち上げるなど、幸せな結婚生活を送ります。また姉ヴァネッサは生涯にわたる良き理解者でした。

精神的な不安定さに苦しんだウルフですが、第二次世界大戦によるロンドン大空襲によって家が破壊されたことで病状が悪化します。そして1941年3月28日、ポケットに石を詰めたコートを羽織り、自宅近くのウーズ川に入水し、自らの生命を絶ちました。

書斎に残されていたという夫レナードに宛てた書き置きを引用します。

最愛のあなた

また自分の頭がおかしくなっていくのが分かります。私たちはあのひどい時期をもう二度と乗り切ることはできないでしょう。それに今度は治りそうもありません。声が聞こえるようになって集中できないのです。だから最善と思うことをします。あなたは私をこれ以上ないほど幸せにしてくれました。あなたは誰にも代えがたい人でした。二人の人間が私達ほど幸せになれることはないでしょう。この恐ろしい病気が始まるまでは。もう戦うことができません。私はあなたの人生を犠牲にしています。私がいなければあなたは自分の仕事ができるのですから。あなたはできるはずです。もうこの文章さえきちんと書けません。読むこともできない。言っておきたいのは、私の人生の幸せはすべてあなたのおかげだったということです。あなたは私に対してとても忍耐強く、信じられないほどよくして下さいました。他の人たちも分かっています。もし誰かが私を救ったとしたら、それはあなたでした。私にはもう何も残っていませんが、あなたの優しさだけは今も確信しています。これ以上あなたの人生を無駄にするわけにはいかないのです。今までの私たち以上に幸せな二人は他にはありません。

Rose, Phyllis (1986). Woman of Letters: A Life of Virginia Woolf. Routledge. pp.

意識の流れ

「ダロウェイ夫人」は、登場人物の心の動きや思考を追って言葉を積み重ねていく「意識の流れ」という手法で描かれた作品です。
1923年6月。とある一日におけるダロウェイ夫人の日常が、何か特別な一日のように描かれていきます。印象的な鐘の音によって時の流れを感じながら、わずか13時間の物語を堪能してください。

以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。

同じく「意識の流れ」手法によって描かれた作品です。

関連する映画

「めぐりあう時間たち」(監督スティーヴン・ダルドリー)2002年作品

1923年のロンドンで精神的な病を患いながら「ダロウェイ夫人」を書くバージニア・ウルフ。51年のロサンゼルスで「ダロウェイ夫人」を読む家庭の主婦。01年のニューヨークで詩人の友人のためにパーティを開こうとする女性編集者。3つのドラマが交錯していく。ニコール・キッドマン(アカデミー賞主演女優賞受賞)、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープ、3大女優競演。

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