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【作品背景】白人でもなく黒人でもない「八月の光」(フォークナー)

アメリカ文学

言葉に言葉が、文章に文章が、物語に物語が、積み重なっていく。時制を超えた物語。

みなさん、こんにちは。めくろひょうです。

今回は、「八月の光」(ウィリアム・フォークナー)の作品背景について、簡単にご紹介します。

あらすじ

出産間近の妊婦リーナ。父親になる男は行方不明。その男を探す旅に出たリーナがたどり着いた街ジェファーソン。工場で働くバンチ、黒人の血を引く白人クリスマス、世を捨てた牧師ハイタワー。ジェファーソンの街に暮らす人々の様々な思いと苦悩が交錯する。

作品の詳細は、新潮文庫のHPで。

ウィリアム・フォークナー、加島祥造/訳 『八月の光』 | 新潮社
人種偏見に異様な情熱をもやす米国南部社会に対して反逆し、殺人と凌辱の果てに逮捕され、惨殺された黒人混血児クリスマスの悲劇。

ヨクナパトーファ・サーガ

この作品は、フォークナーによるヨクナパトーファ・サーガに含まれる一作品です。

ヨクナパトーファ・サーガとは、ミシシッピ州に設定された架空の土地「ヨクナパトーファ郡ジェファーソン」を舞台にして描かれた作品群の総称です。

フォークナーは、この土地を作品の共通舞台にするとともに、バルザックによって広められた「人物再登場法」を採用し、多くの作品を描きました。

バルザックについては「ゴリオ爺さん」(バルザック)の作品背景を参照ください。

「八月の光」は禁酒法が施行されていた1932年に発表されたサーガ5作品目にあたります。(サーガを順番に読み進める必要はなく、この作品だけで十分楽しめます。)

フォークナー自身、生涯の大半をミシシッピ州ラファイエット郡オックスフォードという街で過ごしました。自宅は「ローアン・オーク」(Rowan Oak)と呼ばれています。

禁酒法

アメリカ合衆国において、1920年から1933年まで施行されました。

お酒を作ってはいけない、売ってはいけない、運んではいけない、という内容の法律です。

但し、お酒を飲むことは禁じられていませんでした。

そもそも、なぜこのような法律が制定されたのでしょうか?

アメリカ建国の民である清教徒(ピューリタン)をはじめとする、宗教的な影響と言われています。

また、当時アメリカで人気が高かったビールが、敵国ドイツ製だったことも一因とされています。

「グレート・ギャツビー」(フィッツジェラルド)の主人公ギャツビーも密造酒で財を成したと疑われたりしていますね。

アメリカ合衆国南部

アメリカ南部は、連邦政府に対し、州の権限を強く求める立場をとっていました。

それが南北戦争勃発の一因ともなるわけですが、合わせて、奴隷制度を容認する姿勢も南部の特徴といえます。

18世紀以降、アフリカ大陸から多くの奴隷が労働力として連れて来られました。

彼らの働きにより、綿の栽培は重要な輸出品となり、経済を支えました。

また、バイブルベルトと呼ばれるほど、キリスト教各宗派の熱心な信者が多いことも南部の特徴です。

進化論を教えることが禁止されている地域もありました。

意識の流れ

米国の心理学者ウィリアム・ジェイムズが提唱した「人間の意識はイメージや観念が流れるように連なったものである」という考え方を「意識の流れ」といいます。

フォークナーはこの手法を用いて、登場人物の思考を次々に積み重ねていきます。この作品の大きな特徴といえるでしょう。

まとめ

見た目は白人ながら、黒人の血が混じっていることに苦悩し、白人社会・黒人社会のどちらにも属することができないクリスマス。

熱心な信者の多い地域の牧師でありながら、南北戦争で活躍した祖父の幻影に惑わされ世捨て人として生きるハイタワー。

ふたりの意識が、現在と過去を行きつ戻りつしながら、物語が進んでいきます。

重く暗いテーマが作品全編に漂う中、一筋の光がリーナでしょうか。

独特の文体・構成をもつ作品なので、読みやすくはないかも知れません。

ですが読み進めていくうちに、ぐいぐいフォークナーの世界に呑み込まれていきます。

この不思議な感覚を是非味わってみてください。

以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。

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