「パリよ。さあ今度はおれとお前の勝負だ!」上流階級に憧れ、社交界に足を踏み入れる学生ラスティニャック。
みなさん、こんにちは。めくろひょうです。
今回は、フランス写実主義文学の傑作「ゴリオ爺さん」の作品背景をご紹介します。
あらすじ
パリの下宿屋ヴォケール館に住む学生ラスティニャック。同じ下宿人である老人ゴリオと知り合う。今は落ちぶれてしまったが、現役時代に商売で財を成したゴリオは、娘を上流階級に嫁がせたという。上流階級に憧れを抱くようになったラスティニャックは、つましい生活を放り出し、社交界に呑み込まれていく。
作品の詳細は、光文社古典新訳文庫のHPを。紹介文が読書欲をそそります。
ナポレオン失脚後の王政復古の時代
ナポレオン失脚後ルイ18世が王位に就き、1814年憲章が制定されます。これによって、富裕層による支配体制が明確になりました。富裕層(高額納税者)にしか選挙権を認めなかったのです。
権利を回復した貴族階級、産業の発達とともに力をつけた新興ブルジョア階級。この作品の主人公ラスティニャックは、上流階級にのし上がろうとする野心を抱いて大都市パリにやってくるのです。
社会的地位を手に入れるための手段としての結婚。そのために惜しみなく金を使う親。そうして手に入れた上流階級の幸福とは呼べない生活。著者バルザックは、このような社会に振り回される人たちの姿を、冷静に見つめて描き出しているのです。
作品内に登場するパリの3地区は、貴族階級・ブルジョア階級・一般庶民がそれぞれ住んでいた典型的な地区です。その様子は、バルザックの詳細な記述で感じ取れます。
写実主義文学
写実主義文学とは、現実をありのままに描いた作品群を指します。
バルザックはこの作品の舞台となる下宿屋ヴォケール館やそこに住む人たち、周辺の街並みを詳細に描写しています。この手法をもって、バルザックは写実主義文学の父と呼ばれることとなります。小説としての作品価値とともに、当時のパリを知るための貴重な資料とも言えます。
人物再登場法
「人物再登場法」とは、文字通り、著者の過去作品に登場した人物が、再度別の作品に登場するという手法です。現代でいえば、スピンオフ作品に近い感じでしょうか。その手法を初めて本格的に採用したのがバルザックといわれています。
前日談や後日談を楽しめるという意味では、ファンにとっては喜ばしい仕掛けですが、バルザックの作品は登場人物が多く、逆に読者を混乱させてしまうことがあるともいわれています。
シャーロック・ホームズでおなじみの作家コナン・ドイルは、「バルザックの作品は、どこから読み始めていいものやら解らない」といって読まなかったとか。
主な登場人物による3つの視点
バルザックは主な登場人物3人の視点から、当時のパリ社会を描き出します。
1・ラスティニャック
- 上流階級への足掛かりをつかみたい野心家の学生。
- 法律を学ぶためにパリへやってくる。
- 社交界に出入りするうちに、法律の勉強を疎かにし、出世欲にまみれていく。
2・ゴリオ
- 金で娘の結婚および社会的地位を手に入れたブルジョア。
- 商売で財を成し、ふたりの娘を上流階級に嫁がせる。
- 愛する娘たちに惜しみなく財産を供与するが、娘たちにとって父親の存在は希薄。
3・ヴォートラン
- 裏社会に生き、パリの表社会を冷静かつ皮肉混じりに見つめる素性不明な怪しい男。
- バルザックが実際に会ったことのある、実在した犯罪者フランソワ・ヴィドックがモデル。
オノレ・ド・バルザック
この作品の冒頭に “All is true” (すべて真実なのだ)と記述しているように、リアリティにこだわったバルザックは、執筆した作品群を「人間喜劇」としてまとめあげようとしました。(死によって未完に終わる)
壮大なスケールで社会と人間を描き続けたバルザックは、実生活でも壮大だったようで、作品執筆の合間に社交界で散財を繰り返しました。
生前に残した莫大な借金は、死の直前に結婚したポーランド貴族ハンスカ伯爵夫人の巨額の財産で返済されたそうです。
フランソワ・ヴィドック
この作品に登場するヴォートランのモデルとなったフランソワ・ヴィドック。
数奇な運命をたどり、後世に大きな影響を与えたこの人物を簡単に紹介しておきます。
脱走兵として逮捕され、入獄中に裏社会の情報や犯罪の手口など知ることになります。その後、脱獄と入獄を繰り返しますが、出獄後は犯罪に手を染めることなく、パリ警察の密偵になります。
犯罪を知り尽くした彼は、数々の事件を解決し、国家警察パリ地区犯罪捜査局(パリ警視庁の前身)を創設し初代局長になります。
退職後は、世界初となる私立探偵事務所を設立し活躍の場を広げます。また自身の半生を記した「ヴィドック回想録」を執筆します。
この著書はエドガー・アラン・ポーやコナン・ドイルなどに大きな影響を与えたと言われています。「レ・ミゼラブル」のジャン・ヴァルジャンも彼からヒントを得て創作されたとか。
以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。
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