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【作品背景】一世一代の恋の結末は「シラノ・ド・ベルジュラック」(ロスタン)

フランス文学

初演から120年以上たった現在でも、世界各地で上演されている大ヒット戯曲。

みなさん、こんにちは。めくろひょうです。

今回は、「シラノ・ド・ベルジュラック」の作品背景をご紹介します。

あらすじ

剣の達人であり豪放磊落。歯に衣着せぬ毒舌で、敵も多いが味方も多い。しかし詩の名手でもあり、誇り高い男シラノ・ド・ベルジュラック。そんな彼が密かに恋心を抱いている相手は、従妹のロクサーヌ。ところが彼女が想いを寄せるのは、美男子だけど口下手な青年クリスチャン。そこでシラノは、ロクサーヌの幸せを願い、ある作戦を実行する。果たしてシラノ一世一代の恋の結末は。

作品の詳細は光文社古典新訳文庫のHPで。

シラノ・ド・ベルジュラック - 光文社古典新訳文庫
詩人で心優しい剣士シラノは生まれついての大鼻の持ち主。従妹のロクサーヌに密かに想いをよせるが——。

エドモン・ウジェーヌ・アレクシ・ロスタン

1868年、フランス・マルセイユの裕福な家庭に生まれ、幼い頃から文学や芸術に親しみました。1884年、パリに移り、パリ大学法学部で学びますが、卒業後は定職に就かないまま、詩人ルコント・ド・リール、作家ジュール・ルナール(『にんじん』著者)らと親交を深め、戯曲の執筆を始めます。しかし、評判を得ることはできませんでした。

1890年に、詩人ロズモンド・ジェラールと結婚。後見人は、アレクサンドル・デュマ・フィス(『椿姫』著者)でした。

その後の作品で徐々に評価を高め、当時の大女優サラ・ベルナールのために書いた作品『サマリアの女』がヒットし、劇作家としての地位を固めました。

そして、サラ・ベルナールの紹介で知り合った俳優コンスタン・コクランに依頼されて執筆したのが『シラノ・ド・ベルジュラック』です。1897年12月の初演から、1年以上にわたる記録的ロングラン公演になりました。

『シラノ・ド・ベルジュラック』の大成功もあり、1901年、わずか33歳にして、権威あるフランスの国立学術団体であるアカデミー・フランセーズの会員に選出されました。その後も、戯曲だけでなく、詩集・短編・評論などを精力的に執筆しました。

1918年、世界的に流行したスペイン風邪に感染してしまい、パリで死去。50年の生涯を終え、故郷マルセイユに葬られました。

実在の人物シラノ・ド・ベルジュラック

作品の主人公であるシラノは、17世紀フランスに実在した人物です。作品中に描かれているように文武両道の人物でした。凄腕の剣術家であり軍人として出征するとともに、戯曲や小説を残しました。

1619年、パリで生まれました。父親は弁護士で、幼い頃は祖父の領地であったパリ郊外で育ちます。パリ大学付属の学校で学び、20歳の頃に軍に入隊します。1640年、ヨーロッパ諸国を巻き込んだ宗教戦争である三十年戦争ので負傷し、軍を離れます。軍にいるころから「剣の名手」として名をはせ、多くの武勇伝が残っています。

その後、科学や哲学を学び、デカルトの自然哲学の影響を受けました。科学的好奇心と想像力が旺盛な人物で、当時のカトリック社会では異端と見なされる思想を持っていました。さらに文筆活動もおこないました。

代表作である『月世界旅行記』は、月に行った主人公が、地球とは異なる文明・価値観に出会うというストーリーで、当時のヨーロッパにおける宗教・科学・社会秩序などに対する風刺が込められています。またこの作品は、空想科学小説(SF小説)の先駆けとも評されていて、ジュール・ヴェルヌやH.G.ウェルズといったSF作家に影響を与えたと言われています。

ちなみにこの作品は、シラノ没後の1656年に、友人アンリ・ル・ブレによって出版されました。ちなみに、その頃の日本は、江戸時代初期ですね。

1654年、居候していた貴族の屋敷で事故に遭い頭部を負傷してしまいます。恨みを買った人物の復讐とも言われています。翌年、従兄が住むパリ近郊の村に移り療養しますが、死去。36歳の若さでした。死因については様々な説があり、はっきりしていません。

作品の中のシラノ・ド・ベルジュラック

ロスタンは、この作品の執筆にあたり、シラノ本人の経歴をベースに、シラノの代名詞ともなった「大きな鼻」という要素を盛り込みました。(ちなみに実在のシラノの鼻は大きくありませんでした)これによって、シラノ自身が容姿に対するコンプレックスを抱き、ロクサーヌに想いを告げられないという設定を作り出しました。

また、残念ながら私はフランス語の原書が読めないのでよくわかりませんが、ロスタンが生み出したセリフの数々は、ウィットに富み、巧みに韻を踏んだダイナミックなもので、ストーリーはもちろんですが、魅力的なセリフ回しが、この作品の評価を高めているそうです。魅力を堪能できる、原書を読める方がうらやましいです。

https://o-dan.net/ja/

光文社古典新訳文庫版の訳者である渡辺守章氏が、この魅力的なセリフ回しを翻訳するにあたって「どのように工夫したか」を詳細に解説してくださっています。

古典的な詩劇スタイルで、生前は絶大な人気を誇ったロスタンでしたが、第一次世界大戦後、文学潮流の変化によって、一時的に評価が下がった時期もありました。しかし、20世紀後半以降、言葉の美しさと人間の情熱を信じたロスタンの感性は再評価され、特に『シラノ・ド・ベルジュラック』は不朽の名作として、現在でも世界中の舞台で演じられています。

一世一代の恋の結末は

フランスの恋愛物語というと、女性向きと思いがちですが、男性でも十分楽しめる、いや、男性にこそ読んで欲しい、素敵な恋の物語です。

「男は顔じゃないよ心だよ」を地で行くシラノ。
愛するロクサーヌの幸せを願い、自分の想いを心に封じ込めます。
しかし偽のラブレターに本当の想いが溢れてしまう。
シラノの想いはロクサーヌに届くのか。
一世一代の恋の結末は。

以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。

映像化作品

人気のある作品なので、何度も映画化されています。

主演のホセ・フェラーがアカデミー賞主演男優賞を受賞した「シラノ・ド・ベルジュラック」(1950年作品)や、作品舞台を現代に設定した「愛しのロクサーヌ」(1987年作品)が主な作品です。

また、今まさに「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!」(監督アレクシス・ミシャリク主演トマ・ソリヴェレ)が公開中。

エドモン・ロスタンによる戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」誕生秘話に迫るコメディー「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!」。19世紀末のパリを舞台に、新作が白紙の状態で舞台上演を決めた劇作家が、3週間の期限の中で仲間たちと舞台を作り上げていく。

さらに、演劇の本場イギリスで上演された舞台の中から、英国ナショナル・シアターが厳選し収録した舞台を映画館で楽しめるナショナル・シアター・ライブ(NTLive)で「シラノ・ド・ベルジュラック」が取り上げられ、12月4日(金)公開予定です。

いまだに衰えない人気ぶりがうかがえます。

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