【作品背景】古き、良き、英国。「チップス先生さようなら」(ヒルトン)

イギリス文学
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子供はいたよ。何千人も。何千人も。でも、みんな男の子なんだ。

みなさん、こんにちは。めくろひょうです。

今回は、「チップス先生さようなら」(ヒルトン)の作品背景をご紹介します。

あらすじ

イングランド東部のブルックフィールド校で半世紀以上教鞭を執り続けた名物教師チップス。頑なに昔ながらのスタイルを貫きつつも、絶品のジョークで生徒たちを魅了してきた。退職後、チップスの胸に去来する思い出。生徒たちと過ごした愉快な日々、第1次世界大戦の戦禍、そして愛すべき妻キャサリン。古き、良き、英国を描いた不朽の名作。

作品の詳細は、新潮社のHPで。

ジェイムズ・ヒルトン、白石朗/訳 『チップス先生、さようなら』 | 新潮社
霧深い夕暮れ、煖炉の前に座って回想にふけるチップス先生の胸に、ブルックフィールド校での六十余年の楽しい思い出が去来する――。腕白だが礼儀正しい学生たちとの愉快な毎日、美しく聡明だった亡き妻、大戦当時の緊迫した明け暮れ……

ジェームズ・ヒルトン

1900年イングランド北部ランカシャーで生まれました。父親は学校の校長を務めていて、本作品の主人公であるチップス先生のモデルとなった人物のひとりと言われています。

パブリックスクールのリース校に進学しますが、この学校が作品の舞台となるブルックフィールド校のモデルになりました。

ケンブリッジ大学に進み、在学中から雑誌への投稿を始めます。19歳になると処女長編作品「キャサリン自身」を出版します。大学卒業後も、新聞や雑誌への投稿で生計を立てながら小説の執筆を続けますが、高い評価を得るには至りませんでした。

転機になったのは、雑誌に掲載された「チップス先生さようなら」が、アメリカの雑誌に転載され高い評価を得たことです。1934年には単行本として出版されベストセラーになりました。作品はイギリスに逆輸入され、こちらもベストセラーとなりました。

またこのヒットによって旧作品も再評価され、中でも「失われた地平線」はヒルトンの代表作とみなされるようになりました。

古き良き英国を描いた作品がアメリカで人気を集め、イギリスに逆輸入されるなんて、ちょっと面白いですね。

その後、作品の映画化などの仕事があり、アメリカに移住します。

1942年に手掛けた映画「ミニヴァー夫人」では共同執筆者とともにアカデミー賞脚色賞を受賞しました。

1954年、カリフォルニア州のロングビーチで、54歳の生涯を終えました。

パブリックスクール

作品の舞台となるブルックフィールド校はパブリックスクールと呼ばれる学校です。

パブリックスクールとは、13歳〜18歳の子供を教育する私立学校の中で、優秀な生徒を擁するエリート校の呼び名です。寄宿制の男子校でしたが、最近は男女共学に移行しているそうです。

イギリスが誇る名門ケンブリッジ大学・オックスフォード大学などへの進学を前提とした進学校で、厳格な入学基準があり学費は高額、したがって、生徒の大多数は上流階級の出身者で占められています。

The Leys School Gate パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.

私立の学校なのに、なぜ「パブリック」と呼ばれるのでしょうか。

中世ヨーロッパにおいて、学校とは教会かギルド(職業別組合)によって運営されていて、聖職者や職人の育成が目的でした。そして入学資格も、出身地・親の職業・宗派・身分などで制限されていました。貴族階級のこどもたちは学校に行かず家庭教師に教えられていました。

しかし近世になると、聖職者・職人・貴族に属さない富裕層が現れます。そうした新興富裕層の子弟教育を目的に、出生や身分に関係なく一般に門戸を開いた学校が設立されました。一般(=パブリック)に開かれた学校という意味で「パブリックスクール」と呼ばれるようになりました。

シャングリラ

みなさん「シャングリラ」って聞いたことありますよね。

一般的には理想郷を指す言葉として使われています。実はこの「シャングリラ」は、ヒルトンが1933年に出版した作品「失われた地平線」に登場する僧院の名称です。作品のヒットによって、トーマス・モアの「ユートピア」とともに、理想郷の代名詞として使われるほど世界中に浸透しました。

ヒマラヤの奥地に建つ地上の楽園「シャングリラ」に興味がある方は「失われた地平線」も手に取ってみてはいかがでしょうか。

映画化

1939年に映画化された時の主演ロバート・ドーナットは、同じ年に歴史的大ヒットとなった「風と共に去りぬ」のクラーク・ゲーブルをおさえ、アカデミー賞主演男優賞を獲得しました。

ストーリーは若干アレンジされていますが、(ハリーポッターのホグワーツのような?)学校の雰囲気は感じ取れると思います。

古き、良き、英国。

ひとりひとりをすべて記憶している、生徒に対する愛情。

自分ひとりでは気づけなかった新たな面を掘り起こしてくれた、最愛の妻キャサリンへの愛情。

古き、良き、英国の、小さな街を流れた素敵な時間を、みなさんも感じてみませんか。

パブリックスクールの雰囲気をより深く感じてみたい方には、ヒルトンと同じリース校に学んだ池田潔氏のこの著作がおすすめです。

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