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【作品背景】古き良き南部は「風と共に去りぬ」(マーガレット・ミッチェル)

アメリカ文学

南北戦争前後のアメリカ激動の時代。南部ジョージア州タラ農園の娘、小悪魔系炎の女スカーレット・オハラ波乱万丈の半生を描いた壮大なアメリカンサーガ。

みなさん、こんにちは。めくろひょうです。
今回は、「風と共に去りぬ」(マーガレット・ミッチェル)の作品背景をご紹介します。

あらすじ

アメリカ・ジョージア州の裕福な農園の娘として生まれたスカーレット・オハラ。周囲の男たちを虜にする魅力的なスカーレットだが、淡い恋心を抱いている相手アシュレは、パッとしない地味な女の子メラニーと結婚してしまう。腹いせに好きでもない相手と結婚してしまうスカーレットだが、そんな彼女の鬱屈した心の奥は、破天荒な男レットに見透かされていた。
南北戦争が勃発し、古き良きアメリカ南部の街や慣習は破壊されていく。大きな時代の流れの中で、スカーレットは新たな時代を切り拓いていく。

作品の詳細は、新潮社のHPで。

マーガレット・ミッチェル、鴻巣友季子/訳 『風と共に去りぬ 第1巻』 | 新潮社
アメリカ南部の大農園〈タラ〉に生まれたスカーレット・オハラは16歳。輝くような若さと美しさを満喫し、激しい気性だが言い寄る男には事欠かなかった。しかし、想いを寄せるアシュリがメラニーと結婚すると聞いて自棄になり、別の男と

マーガレット・マナーリン・ミッチェル

ミッチェルは1900年、アメリカのジョージア州アトランタで生まれました。父親は弁護士で、弁護士会会長やアトランタ歴史協会会長を務めた地元の名士でした。

1918年、ワシントン神学校を卒業すると、医学を志しマサチューセッツ州のスミス大学に入学します。しかし翌年、母親がインフルエンザで亡くなってしまい、学業をあきらめてアトランタへ戻りました。

その後、地元の新聞社アトランタ・ジャーナルに入社し、コラムを執筆しました。1922年、酒の密売人ともいわれているベリーン・アップショーと結婚しますが、2年後には離婚してしまいます。その後1925年にジョン・マーシュと再婚。

マーガレット・ミッチェルのイメージ 投稿者が作成

骨折による自宅療養生活を送る間に、夫マーシュの協力もあり、「風と共に去りぬ」の執筆の着手します。骨折が完治した頃には作品もほぼ完成していましたが、発表されることはありませんでした。

1935年、ふとしたきっかけで出版社の編集者であるハワード・ラザムと出会ったミッチェルは、自宅に保管してあった原稿を彼に渡します。膨大な量の原稿を読んだラザムは、作品のヒットを確信し、出版を決めます。ミッチェルは加筆修正をおこない、1936年に発表されました。出版後、瞬く間にベストセラーとなり、翌年ピューリッツァー賞を受賞します。その後、世界各国語に翻訳されました。

3年後の1939年には早くも映画化され、映画史に残る大ヒット作品となりました。

1949年8月、夫マーシュとともに劇場へ出掛けた夜、交通事故に遭い、48歳の若さで亡くなりました。
生涯で発表した作品は「風と共に去りぬ」ただ1作のみでした。

時代背景

「風と共に去りぬ」は一大ラブロマンスであると同時に、壮大な歴史小説でもあります。その時代背景について紹介します。

南北戦争

アメリカ南北戦争は、1861年から1865年にかけてアメリカ合衆国で起きた戦争です。戦争が勃発した原因はひとつではなく、様々な要因が複雑に絡み合った結果だとされています。合衆国の方針に異を唱えた南部の11州が連邦から脱退し、アメリカ連合国を結成したことによって対立が表面化、戦争に突入していきました。

南北戦争のイメージ 投稿者が作成

南北の主な対立点は下記の通りです。

●産業
  南部:綿花プランテーションを中心とした農業
  北部:商工業
●政治体制
  南部:連邦政府の権限を制限 州の自治権を拡大
  北部:連邦政府の権限を拡大 統一を強める
●貿易政策
  南部:主要農産物の輸出を増やすために自由貿易
  北部:外国製工業製品との競争を避けるために自国保護貿易
●黒人奴隷制
  南部:プランテーションを維持するために奴隷制は必要
  北部:人道的見地から奴隷制に反対

「風と共に去りぬ」の舞台であるアトランタ(ジョージア州)は、南部の主要都市であり、タラ農園は、奴隷たちの労働力によって支えられているプランテーションでした。

1860年の選挙で大統領になったエイブラハム・リンカーンは、この難局をコントロールし合衆国(北部)を勝利に導きます。リンカーンは「奴隷解放宣言」を制定し、憲法修正第13条によって奴隷制度を違法としました。

奴隷制度

アメリカの奴隷制度は、アメリカ建国時から矛盾をはらんだ状態で存在していました。アメリカ独立宣言には「すべての人は平等に造られ」ていて「生命、自由、そして幸福の追求」を権利として与えられていると、記載されていました。しかし、この「すべての人」の中には黒人奴隷とネイティブアメリカンは含まれていませんでした。また、アメリカ独立の指導者ワシントンやジェファーソンは、黒人奴隷を所有していました。

奴隷は所有者の財産として扱われ、奴隷市場で売買が可能でした。所有者は、プランテーションや屋敷の労働力として奴隷たちを使用しました。法的な人権を持たず、所有者の思うがまま、まさにモノとして扱われました。

綿花農場のイメージ 投稿者が作成

マミーをはじめ、スカーレットの周りには多くの奴隷たちがいます。友人や仲間のように描かれてはいますが、法的にはモノなのです。

アメリカ南部にとって、奴隷たちの労働力は欠かせないものであり、経済を支える基盤でした。しかし、奴隷制度は倫理的・人道的に許されることではなく、1865年に廃止されました。

アトランタ

作品の舞台となったアトランタは、アメリカ合衆国ジョージア州の州都です。

現在アトランタがある場所は、元々ネイティブ・アメリカンの村がありましたが、ヨーロッパからの入植者がやって来て、ネイティブ・アメリカンの人々は、強制移住によって土地を奪われてしまいました。鉄道を敷くためにこの地にやってきた技術者が、この地をアトランティカ・パシフィカという名に変えることを提案し、1847年、正式にアトランタという街になりました。その後、交通の要所として急速な成長を遂げました。

南北戦争においては、南軍の重要な軍事的拠点としての役割を果たしましたが、1864年に北軍の攻撃を受け、大規模な破壊と焼失を経験しました。スカーレットがレットの助けを借りて、命からがら街を脱出するシーンです。

南北戦争後は、都市の再建と経済の復活により、新たな産業やビジネスの中心地となりました。スカーレットが、女だてらに製材所を切り盛りするシーンです。

アトランタ市街のイメージ 投稿者が作成

20世紀には、アフリカ系アメリカ人の市民権運動の舞台となり、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師など、重要な指導者たちがアトランタを拠点として平等と公民権のために闘いました。

コカ・コーラ、デルタ航空、CNNなどの大企業が本社を置き、アメリカ南部の商業・経済の中心地としての役割を担っています。1996年には夏季オリンピックが開催され、国際的な注目を浴びました。

影のヒロイン・メラニー

スカーレットとレット、そしてアシュレが作品の骨格を成す登場人物であることは、みなさんご承知の通りです。しかし、この3人に対し圧倒的な影響力を持つ存在メラニーについて、触れておきたいと思います。

スカーレットとは正反対の容姿・性格を持つメラニー。スカーレットの想い人アシュレの妻として献身的な愛で彼を支えます。その高潔で善良な心は、道徳的な指針となって、他の登場人物たちに影響を与えます。また、彼女は南部社会の伝統的な女性のあり方を体現していて、口うるさい老淑女たちからも一目置かれる存在です。

アメリカ南部の邸宅のイメージ 投稿者が作成

そして、誰よりもスカーレットを理解し、誰よりもスカーレットを慕う女性です。スカーレットは、自分と対照的で、愛するアシュレを射止めた憎き相手と思っていますが、やがて彼女の価値観や信念を認め、そして自分を理解してくれていることに気づきます。

動と静、炎と水。スカーレットと対比しながら、メラニーの凄さを感じてみてください。

gone with the wind

「風と共に去りぬ」の原題は「gone with the wind」。19世紀イギリスの詩人アーネスト・ダウスンの恋愛詩「シナラ」から引用したものだそうです。南北戦争などの時代の風が、古い制度や慣習、過去の栄光を吹き飛ばしてしまう。そして、新たな時代がやってくる。凄いセンスですね。
合わせて、「去る」の連用形に完了を表す助動詞「ぬ」をつけた邦訳タイトル「風と共に去りぬ」は、世紀の名訳だと思います。

「風と共に去りぬ」のイメージ 投稿者が作成

恋愛小説として読んでも良し。歴史小説として読んでも良し。
スカーレット贔屓でも良し。アンチ・スカーレットでも良し。
様々な読み方で、みなさんの「風と共に去りぬ」を楽しんでください。

ちなみに、作中でスカーレット・「オハラ」である期間は、とても短いんですよ。

以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。

新潮文庫版。気鋭の翻訳家・鴻巣友季子女史による訳。新しいスカーレットが躍動する。

岩波文庫版。米文学者・荒このみ博士による訳。豊富な注に加え、巻末に解説を収録し、時代背景を把握できる。

映像化作品

『風と共に去りぬ』1939年 アメリカ映画
監督:ヴィクター・フレミング
主演:ヴィヴィアン・リー クラーク・ゲーブル

風と共に去りぬ (前編)(字幕版)
南北戦争前後のアトランタを舞台に激動の時代に生きるスカーレット・オハラの炎のような恋と波乱万丈の半生を雄大なスケールで描いた不朽の名作。

『風と共に去りぬ』出版の翌月に映画化権を獲得した敏腕映画プロデューサーのデヴィッド・O・セルズニック(この後ヒッチコック監督の『レベッカ』をプロデュースし第13回アカデミー賞で作品賞を受賞)が、3年の歳月をかけて完成させた長編テクニカラー映画。空前の世界的大ヒットとなり、第12回アカデミー賞では、作品賞・監督賞・主演女優賞・助演女優賞(ハティ・マクダニエルが黒人女優として初の受賞)・脚色賞・美術監督賞・撮影賞・編集賞の8部門を受賞。
ちなみにこの時は『チップス先生さようなら』『オズの魔法使い』『嵐が丘』などの名だたる名作がノミネートされており、主演男優賞は『風と共に去りぬ』のクラーク・ゲーブルを抑え、『チップス先生さようなら』のロバート・ドーナットが受賞している。
チケット価格インフレ調整後の歴代の興行収入では、現在でも『風と共に去りぬ』が1位。

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参考文献

新潮文庫版の訳者である翻訳家・鴻巣友季子女史が、翻訳家の視点でテキストを紐解き「なにが書かれているかではなく、どう描かれているか」を徹底分析。

岩波文庫版の訳者である米文学者・荒このみ博士が、岩波文庫の各巻末に収録されている解説をひとまとめにし、さらに新章を追加。作品の背景となる南北戦争前後の社会情勢を徹底解説。

世界的ベストセラーになった「風と共に去りぬ」だが、作中の描写について、アフリカ系アメリカ人の間では大きな批判や波紋を巻き起こした。インタビューを重ね、人種問題の複雑さを探る。

風と共に去りぬマリエッタ博物館

Marietta Gone With The Wind Museum
Home To Tara - The Marietta Gone With The Wind Museum, located just one mile off the Marietta Square at Historic Brumby Hall, features the privately owned colle...

マーガレット ミッチェル ハウス
ミッチェルが「風と共に去りぬ」執筆時に住んでいた家
管理しているアトランタ歴史センターは「風と共に去りぬ」における奴隷制の描写に対して批判的

Atlanta History Center Midtown | Atlanta History Center
Located at the corner of 10th street and Peachtree Street, Atlanta History Center Midtown contains the Margaret Mitchell House

エイブラハム・リンカン 2022年 アメリカTVドラマ
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