みなさん、こんにちは。めくろひょうです。
「西村寿行」と聞いて、「おっ、懐かしいなぁ。」と思われた、私と同世代の方。
「西村寿行?聞いたことないなぁ。」と思われた若い世代の方。
没後13年を迎え、いま改めて魅力を感じてもらいたく、おすすめの作品をご紹介します。
とは言え、多くの作品を遺した作家なので、作品を内容によってざっくりと分類し、分類したカテゴリーの中からおすすめを紹介するという形でいきたいと思います。
分類の仕方については、Wikipediaを参考にさせてもらいました。
なお、紙の書籍での入手はかなり困難で、古本屋さんでも見かけることが少なくなってしまいました。
ですが、近年は電子書籍での復刻が徐々に進んでおり、読者としては大変ありがたい環境になってきました。
私の所有する紙の書籍も、紙がかなり黄ばんで(茶ばんで)きて、読み返すにはしんどいコンディションです。
西村寿行って
にしむら じゅこう
1930年11月3日 – 2007年8月23日
香川県出身 旧制中学を卒業してから様々な仕事を経験
1969年 オール讀物新人賞で佳作となり作家デビュー
社会派ミステリー・冒険小説など幅広い作品が人気を博しベストセラー作家に
冒険・復讐・暴力・凌辱をスピード感あふれる力強い文章で描いた一連の作品群は「ハードロマン」と呼ばれる
1979年長者番付 作家部門1位
動物小説「犬笛」
西村寿行といえば「犬」。
ここでは代表作ともいえる「犬笛」をとりあげます。
突然、娘・良子を誘拐された秋津は、遅々として進まない警察の捜査に業を煮やす。良子は異常聴覚の持ち主で、人間には聞き取れない犬笛の音を聞き取ることができる。秋津は犬笛を頼りに、愛犬・鉄とともに、良子の捜索に乗り出す。巨大組織の闇に翻弄され、警察に追われる身となった秋津と鉄。娘を取り戻すための戦いが始まった。
熾烈な権益争いを繰り広げる巨大商社、警視庁公安部の謎めいた動き。秋津と鉄に救いの手を差しのべてくれる人たち。父と娘と犬の熱い絆を描く、ハードミステリー代表作。
1978年には三船プロダクション製作、菅原文太主演で映画化されました。劇場に足を運んだ方も多いのでは。
社会派ミステリー「瀬戸内殺人海流」
社会派ミステリーというか、初期の作品群といったほうが的確かもしれません。
処女長篇「瀬戸内殺人海流」をとりあげました。
密告による汚職事件捜査が進む中、関与が疑われていた男がホテルの浴室で溺死した。事故ではなく事件ではと疑う警視庁捜査一課のベテラン刑事・遠野。おとなしい妻の突然の失踪に戸惑う新聞記者・狩野。狩野の妻・千弘の死体が、瀬戸内海で発見されたとき、ふたりの男の想いが交錯する。舞台は東京から瀬戸内海へ。
事故、失踪、汚職。3つの事件が、つながりそうでつながらないもどかしさ。その「もつれ」を丁寧に解きほぐしていく刑事・遠野。妻の心を理解できていなかった悔恨を胸に、真実を追い求める新聞記者・狩野。捜査線上に浮かび上がってきた謎の画家・山岡の出生に秘められた謎。山岡が飼う熊鷹と、島に住み着いた山犬との死闘が意味するものは。
男と女の哀しい性、海、鷹、犬。後の作品に続いていく、寿行ワールドの出発点。
パニック小説「滅びの笛」
非日常的な危機に襲われたとき、人間はどのようにして立ち向かっていくのか。そして、どのようにして崩れていくのか。
コロナ禍のいま、あらためて読み直したい作品「滅びの笛」をとりあげました。
中部山岳地帯における100年に一度といわれるクマザサの一斉開花を予見した環境庁職員・沖田。クマザサの実を食料とする鼠の大量発生を危惧する。上司に報告するも、一笑に付され、恩師である鼠の権威・右川博士に助言を求める。
鼠の天敵である野生鳥獣が謎の東進を始める中、鼠に食い殺されたと思われる死体が発見される。
各地で鼠群による被害が拡大し始め、山梨県に設置された対策本部から自衛隊が出動。鼠の大軍を迎え撃つ。
想像していなかった事態に直面したとき、人はどのように動くのか。硬直して保身に走る行政。自らの職務と判断を信じ立ち向かう男たち。右川博士は繰り返し叫ぶ。「想像せよ」。人間による野生鳥獣の乱獲が生態系の破壊を引き起こしていると、現代社会に警鐘を鳴らしたパニック小説。
第76回直木賞(1976年下半期)候補作。40年以上前に鳴らされた警鐘を我々はどのように受け止めたのか。続編「滅びの宴」。
ハードロマン小説「化石の荒野」
西村寿行の代名詞ともいうべき作品群。
陰謀によってすべてを失った男がひとり復讐に立ち上がる。
暴力や陵辱のシーンが随所にあり、そうした描写が苦手な方にはおすすめできません。
寿行冒険小説の出発点「化石の荒野」をとりあげました。
昏睡から目覚めると、目の前に射殺された死体が。突如として陰謀に巻き込まれた刑事・仁科は、逃亡を余儀なくされる。接触を求めてきた米国諜報機関。政界の実力者や自衛隊特殊部隊の不可解な動き。終戦時の混乱から現代に続く、男たちの狂気に満ちた執念の先にあるものは5000キロの金塊だった。
仁科を生まざるを得なかった薄幸の母。自らの暗い出生に秘められた謎。すべてに決着をつけるため、仁科はひとり、北海道大雪山に向かう。
「トリックというのが性に合わない。だからそれを冒険に置き変えた。」著者自らが語る通りの、寿行アドベンチャーミステリーの出発点。
わが怨み、現在完了。1982、年主演・渡瀬恒彦、共演・浅野温子で映画化されました(角川春樹事務所)。映画はヒットしませんでしたが、しばたはつみによる主題歌は秀逸。公開前に実施された「暗号を解いて金塊を探そう」キャンペーンを覚えている方、いらっしゃいませんか?
ハードロマン小説(シリーズもの)「赤い鯱」
ハードロマン小説の中には、人気を博し、シリーズ化されたものも多数あります。
・死神シリーズ
・鯱シリーズ
・渚シリーズ
・幻戯シリーズ
・垰シリーズ
・無頼船シリーズ
・徳田左近シリーズ
謎の老人・仙石文蔵率いる仙谷軍団が世界を舞台に大立ち回り。鯱シリーズ第1作「赤い鯱」をとりあげました。
突如その姿を現した赤い国の新型原子力潜水艦「赤い鯱」。米国原潜をはるかに凌ぐその性能は、世界の軍事バランスを崩す脅威となった。米国防総省は、「赤い鯱」捕獲を、謎の老人・仙石文蔵に依頼する。「赤い鯱」の謎を追って、仙石は小笠原海溝の深海へ潜航するが。
思念(ジェダイが使うフォースのようなもの)の使い手・仙石文蔵率いる超人集団・仙石軍団。諜報担当・天星清八の情報網は世界中に張り巡らされ、工学担当・関根十郎はあらゆるメカを使いこなす。物資担当・十樹吾一に調達できないものはない(世界中から選りすぐりの美女も調達可能)。さらに全員が体術をはじめ強力な戦闘力を持つ。
そんな超人たちが、世界を股にかけて大暴れするアクションシリーズ第1弾。
シリーズが進むにつれて、超人ぶりが度を越してしまうので、初期3作(赤い鯱・黒い鯱・白い鯱)がおすすめです。
私は十樹吾一がお気に入りですが、「赤い鯱」では出番が少なく、徐々にその存在感を増していきます。その過程も楽しんでください。
時代小説「 秋霖 」
文字通り、歴史上の人物や事件を題材に、寿行ワールドが繰り広げられます。
「秋霖」をとりあげました。
中国地方に覇を唱えた名門・尼子氏。毛利元就の謀略に陥り滅亡する。瀬戸内海に浮かぶ小島に暮らす老人が、漂流している小舟から幼い子供を助けるが、その子こそ、尼子氏を支えた新宮家嫡流・新宮孫四郎であった。
かつて朝鮮にも恐れられた伝説の武人・火渡り兼。尼子氏再興にすべてを懸ける遺臣・山中鹿之助。老いてなお巨大な存在感を示す毛利元就。尾張に突如として現れた風雲児・織田信長。
若き孫四郎は、自らの意志とは異なる大いなる力で、戦国乱世に押し出される。
幼くして圧倒的な武術を身に着けながらも、ナイーブに揺れ動く孫四郎の心。ともに成長し一心同体ともいえる盟友・狼の悪太郎。孫四郎を弟のように優しく見守る尼子女忍軍団リーダー・雅子。すべてを見通し孫四郎を導く老師・道家道人。
風雲急を告げる戦国時代の中国四国地方を舞台に、新宮孫四郎の活躍と苦悩を描く、戦国アクション・ロマン巨編。
伝奇小説「鬼」
日本古来の伝承や怪奇現象を題材に、時代小説とはひと味違った世界が広がります。
タイトルもズバリ「鬼」をとりあげました。
時は平安、文徳天皇の御代。后・明子は、強大な力を持つ鬼に憑りつかれ、成すすべもなく連日凌辱されていた。時は流れて、昭和。美貌の女性が、性器を切り取られて虐殺されるという猟奇事件が続発。
京都で人気の芸妓・苑生が惨殺された。苑生の兄であり警視庁刑事の御門は、妹の身に何があったのか独自に捜査を進める。そこで出会った男・屋形は、苑生を水揚げした元旦那だった。屋形が聴くという姿なき吟詠の謎を探るうちに、御門は、平安時代の鬼にまつわる伝奇にたどり着く。
京都・花背峠に朗々と流れる吟詠。征夷大将軍・坂上田村麻呂が予見した力の均衡。平安と昭和。舞台は京都から東北へ。人間に潜む醜い心が作り出す鬼とは。
時空を超えた壮大なスケールで鬼と人間の果てしなき情念を描く、超伝奇バイオレンスエロスの傑作巨編。
トップ3
ここからは、分類にこだわらず、好きな3作品を紹介します。
暴力や陵辱のシーンが随所にあり、そうした描写が苦手な方にはおすすめできません。
「血(ルジラ)の翳り」
愛する妻子を惨殺された刑事・霜月。職を辞し、犯人を追うが、手掛かりは皆無だった。縁戚にあたる医師・能形から、血縁関係にある子供たちが不可解な死を遂げていることを告げられる。優秀な刑事だった霜月は、血縁を探る旅に出るが、浮かび上がってきたのは、犯罪者家系とも呼べる、呪われた黒い血を宿す人々の恐るべきつながりだった。
物語が進むにつれて、家系図に記されていく人物が増えていく。膨大な人数に膨れあがる「血(ルジラ)」のつながり。完成した系図に、霜月が見たものは。
寿行ミステリーロマンの白眉。
「梓弓執りて」
医師免許を持たないものの、確かな腕を持つ徳田。医療ミスで隻腕の暴力団員・牛窪の肺を傷つけてしまう。逃げる徳田。追う牛窪。松尾芭蕉の想いを胸に、僻地をさすらう逃避行の中で、徳田に心を寄せる女たち。妻を始め、徳田の女を次々に凌辱し寝取っていく牛窪。お互いの命を懸けた最後の戦いの果てに、牛窪が発した言葉とは。
臆病でひ弱で愛する女すら守れないダメ男・徳田。そんな徳田に心を寄せながら、牛窪に蹂躙される女たち。徳田に対する復讐に暗い炎を燃やす牛窪。
男と女の哀しき業を描き切った寿行バイオレンスエロスの白眉。
「狼のユーコン河」
1941年12月8日。日本軍によるハワイ真珠湾奇襲作戦により、太平洋戦争の火蓋が切って落とされた。理不尽さを増す、アメリカ本土における日本人への弾圧。アラスカ鉱山会社の技師・氏家も、故なき容疑で収容所に送られる。氏家の妻・白人のマリーは、アラスカ・インディアンやエスキモーに崇拝されている伝説の男・ユーコン狼(ウルフ)に助けを求める。氏家をはじめとする収容所に軟禁された日本人たちは、無謀にも、極寒のアラスカを横断し、日本への帰還を計画していた。
永久凍土アラスカの大地を舞台に、日本人、アメリカ軍、インディアン、そしてユーコン狼に襲い掛かる殺戮と凌辱の嵐。生命の火を吹き消す容赦ないブリザード。4000キロを超える決死行の果てに見たものは。
原稿用紙に叩き付けられる文字が疾駆する、寿行ハードロマンの白眉。
いかがでしたか?
おいおい「〇〇」が入ってないぞ、とか、「〇〇」は読んでないなぁ、とか、みなさんが寿行ワールドを思い出すきっかけになってくれればうれしいです。
若い世代の方、まずは1冊、手に取ってみてください。現在活躍中の人気作家とは一味違う、男の、男による、男のための小説世界を堪能できると思います。(すみません。作品の内容的に、女性読者の方を想定していませんでした。)
以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。
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