知性と感情を持っていながら、人間に拒絶された名もなき怪物の悲劇。
みなさん、こんにちは。めくろひょうです。
今回は、ホラー小説の先駆け「フランケンシュタイン」(メアリー・シェリー) の作品背景についてお話します。
あらすじ
北極探検隊の隊長ウォルトンが姉に宛てて書いた手紙には、不思議な出来事が書かれていた。
北極海の氷上で衰弱した男を救助した。彼の名はヴィクター・フランケンシュタイン。彼は科学者を志し、大学で自然科学を学んでいた。だが、生命の謎を解き明かし、自在に操ろうという野心にとりつかれる。そして、研究の末「人間の設計図」を完成させ、それが神に背く行為であると自覚しながらも、実行に移した。墓を暴いて人間の死体を手に入れ、それをつなぎ合わせることで怪物の創造に成功したと、彼は語った。
作品の詳細は、光文社古典新訳文庫のHPを確認してください。
フランケンシュタインとは
フランケンシュタインと言われたら、どんな姿を思い浮かべますか?
- マッドサイエンティスト(博士)が生み出した怪物
- 凶暴な大男
- 全身に皮膚をはり合わせた縫い目
- 四角い頭
- 首にボルト
- 言葉が話せない
といったところが代表的なイメージでしょうか。
映画『フランケンシュタイン』(1931年)に登場した怪物はこんな感じです。
ですが、実際にこの作品に描かれている内容は、
- 身長8フィート(2m40cm)
- フランケンシュタインという名前の学生が生み出した
- 怪物に名前はない
- 知性がある(複数の言語を独学で習得)
いかかですか?「えっ?」と思われた方も多いのではないでしょうか。つまり、元の作品からかけ離れたイメージが世間には浸透しているということです。
また、この怪物には名前がありません。フランケンシュタインというのは、この怪物を生み出した学生の名前です。
メアリー・シェリー
1797年、ロンドンで生まれました。父親は政治思想家、母親はフェミニズムの先駆者として知られる活動家でした。母親はメアリーの生後すぐに亡くなり、父親によって育てられました。父親は進歩的な教育方針を取り、メアリーに自由な思考と文学への関心を育む環境を提供しました。
1814年、メアリーは詩人パーシー・ビッシュ・シェリーと恋に落ちました。しかしシェリーは既に結婚していて、この関係は批判を受け父親は激怒したそうです。にもかかわらずふたりは駆け落ちし、ヨーロッパ各地を転々とする生活を送ります。そしてシェリーの妻が亡くなると、ふたりは結婚しました。
1816年の夏、メアリーは、夫のパーシー、詩人ロード・バイロン、医師ジョン・ポリドリとともに、スイスのレマン湖畔で過ごしました。この夏は異常気象により雨が多く、屋内で過ごすことが多かったようです。そこで、怪談話の創作競争をすることになり、その時メアリーが作った話が『フランケンシュタイン』の原型となった物語です。
シェリーの妻が亡くなると、ふたりは結婚。1818年、『フランケンシュタイン』を出版します。
1822年、夫パーシーを事故で亡くしたメアリーはイギリスに戻ります。4人の子供に恵まれましたが、3人を幼くして失った彼女は、末っ子とともに過ごし、文学活動を続けました。そして1851年、脳腫瘍によって53歳の生涯を終えました。
現代のプロメテウス
本作の原題は『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』です。ギリシャ神話に登場するプロメテウスは、天界の火を盗んで人類に渡した罪によって罰せられた神です。人類は、その火を使うことによって文明を発達させましたが、同時に、武器を作り戦いを始めることになってしまいました。
プロメテウスの行為は人類への愛と知識の象徴である一方で、禁断の行為と解釈されることもあります。本作では、ヴィクター・フランケンシュタインが生命創造という禁断の行為に挑む姿が、プロメテウスの神話と重ねられ、科学の力を追求する人間の野心とその危険性が描かれています。
『フランケンシュタイン』が執筆された19世紀初頭は、産業革命によって科学技術が急速に発展していた時代でした。電気や化学の分野での新発見が次々と報告され、人間の力で生命を創造するというアイデアも、科学者や哲学者の間で議論されていました。
シェリーは、科学技術によって生み出された怪物を「プロメテウスの火」にたとえ、ヴィクター・フランケンシュタインが死体を組み合わせて生命を作り出すという物語を通じて、科学の倫理的な限界や、人間の傲慢さについて問いかけ、それを制御できない事態を予見し、人類に警鐘を鳴らしたのです。
映画が作り出したイメージ
無名作家のゴシック小説として発表された『フランケンシュタイン』でしたが、やがてその革新性が評価され、ホラー小説やSF小説の先駆けと位置づけられるようになります。そして、多くの映画や演劇、文学作品に影響を与えました。
1931年に制作された映画『フランケンシュタイン』(Amazon prime video で見ることが出来ます)は、ホラー映画史上に残る作品と評価されるとともに、上述したように、原作とは異なる「フランケンシュタイン」のイメージを決定づけた作品です。
革新的な特殊効果とセットデザイン、そして怪物役ボリス・カーロフの演技が高く評価され、ホラー映画として記録的な興行成績を収めました。
名もなき怪物の悲劇
ひとりの青年の知的好奇心から生み出された名もなき怪物。知性と感情を持ちながら、人間に拒絶されてしまう悲劇。
遺伝子操作など、生命をコントロールする科学技術が飛躍的に進歩している現代。それがもたらす恩恵と、制御不能な結果がもたらすかもしれない悲劇。いかにして倫理的な問題を解決すればいいのか。
200年以上も前にシェリーが投げ掛けた問いに、みなさんはどう答えますか。
以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。
作者メアリー・シェリーの生涯を描いた映画『メアリーの総て』
(Amazon prime video で見ることが出来ます)
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