ライ麦畑で無邪気に遊ぶ子供たちを守ってあげたい。ただひたすらに純真で無垢なホールデンの魂。時代を超えて若者の支持を集める青春小説の傑作。
みなさん、こんにちは。めくろひょうです。
今回は、「ライ麦畑でつかまえて」(J・D・サリンジャー)の作品背景をご紹介します。
あらすじ
高校をやめた僕。学校の寮、ニューヨークへ向かう電車の中、ニューヨークのホテルやナイトクラブ。そこで僕は、こんなことをし、こんな人たちと出会い、こんな話をしたよ。家に帰ると両親は出掛けていて留守。だけど、大好きな妹のフィービーと再会し、楽しいおしゃべりをすることが出来たんだ。
大人や社会の欺瞞を否定する少年ホールデン・コールフィールド、魂の遍歴。
作品の詳細は、白水社のHPで。
ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー
1919年1月1日、ニューヨークのマンハッタンで生まれました。父親は貿易商で、裕福な家庭に育ちました。
1932年、全寮制の学校に入学しますが、学業不振を理由に1年で退学処分になってしまいます。転校先の学校を卒業した後、コロンビア大学に聴講生として通い、著名な文芸誌『ストーリー』を主宰していたホイット・バーネットの創作講座を受講します。バーネットはサリンジャーに大きな影響を与え、1940年、処女作『若者たち』は『ストーリー』誌に掲載され、サリンジャーは初めて原稿料を得ました。
1941年、ホールデン・コールフィールドが初めて登場する短編作品『マディソン・アヴェニューのはずれでのささいな抵抗』が大手有力誌『ニューヨーカー』へ掲載されることが決まりますが、太平洋戦争開戦によって、作品の掲載は延期になってしまいました。(この作品は第2次世界大戦終戦後の1946年に掲載されました)
この頃交際していた女性ウーナ(ノーベル文学賞受賞劇作家ユージン・オニールの娘)は、突然喜劇王チャールズ・チャップリンと結婚してしまい、サリンジャーは大きなショックを受けます。
1942年、志願兵として陸軍に入隊します。1944年にはイギリスに派遣され、第2次世界大戦ヨーロッパ戦線最大の激戦となったノルマンディー上陸作戦に参加します。フランスに転属になった際には、新聞社の特派員としてパリに滞在していたアーネスト・ヘミングウェイと会いました。ヘミングウェイは、サリンジャーの才能を高く評価しました。しかし激しい戦争の中でサリンジャーの精神は大きなダメージを受け、神経衰弱と診断されてしまい入院を余儀なくされます。入院中にドイツ人女性医師シルヴィアと知り合い結婚。第2次世界大戦終戦後除隊しました。
1946年、シルヴィアとの短い結婚生活が終わり、離婚。執筆活動に専念します。『ライ麦畑でつかまえて』の執筆を開始したのはこの頃です。1950年『ライ麦畑でつかまえて』が完成し、リトル・ブラウン社から出版されました。作品の評価には賛否両論あり、保守的・道徳的思想を持つ人々からは激しい非難を受けました。しかし主人公ホールデンと同世代の若者たちからは圧倒的な支持を受け、現在までに全世界で6000万部以上の売り上げを記録しています。
しかし名声が高まったことによって静かな生活を送ることが難しくなり、ニューハンプシャー州コーニッシュに転居、社会から孤立した生活を送るようになりました。
1955年に再婚し、ふたりの子供に恵まれますが、発表する作品は少しづつ減っていきます。『ナイン・ストーリーズ』『フラニーとズーイ』『大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア―序章―』などを発表しますが、1965年に『ニューヨーカー』誌に掲載された『ハプワース16、一九二四』を最後に、作品を発表することはありませんでした。
晩年のサリンジャーは、塀で囲まれた家で生活し世捨て人のようなイメージで語られることが多いですが、実際は、近隣に暮らす人たちと交流をしていたようです。
2010年1月27日、老衰のため、コーニッシュの自宅で亡くなりました。91歳でした。
サリンジャーをつかまえて
1985年、作家イアン・ハミルトンが、サリンジャーの書簡を元に伝記を執筆しますが、出版前にサリンジャーが異議を申し立てて裁判を起こしました。ハミルトンは書き直しますが、裁判はサリンジャーが勝訴。ハミルトンはサリンジャーの書簡を引用しない形で伝記『サリンジャーをつかまえて』を出版しました。内容の信憑性をどう判断するかは難しいところですが、サリンジャーがどのような人柄だったのか、『ライ麦畑でつかまえて』はどのようにして生まれたのかの輪郭を知ることができます。但し、現在入手することはかなり困難です。古本屋や図書館で探してみてください。
サリンジャーの死後に発表された評伝『サリンジャー 生涯91年の真実』では、代表作をはじめ、単行本未収録の初期短編や未発表作品までが紹介されています。また、この作品は映画化されています。
『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』
2019年 アメリカ映画
1939年の華やかなニューヨーク。作家を志す20歳のサリンジャーは編集者バーネットと出会い短編を書き始める。だが太平洋戦争が勃発し、サリンジャーは戦争の最前線での地獄を経験することになる。数年後、苦しみながら完成させた初長編小説「ライ麦畑でつかまえて」は出版と同時にベストセラーとなり、サリンジャーは天才作家としてスターダムに押し上げられた。だが、彼は次第に世間の狂騒に背を向けるようになる。
キャッチャー・イン・ザ・ライ
ホールデンの言葉遣いや態度、暴力や性行為の描写、その根底に流れる思想などは、道徳的観点から度々批判され、アメリカでは図書館に置かれていないこともあるそうです。
1980年、ジョン・レノンを射殺した男が『ライ麦畑でつかまえて』の愛読者だったことが報道されると、危険な思想を持つ人々に支持される作品というレッテルを貼られてしまうこともありました。
しかし、ホールデンに共感する若者は後を絶たず、作品発表から70年を経た現在でも、世界中で支持を集めています。
ライ麦畑で無邪気に遊ぶ子供たちを守ってあげたい。ただひたすらに純真で無垢なホールデンの魂。好き嫌いがはっきりと分かれるホールデン。
あなたは好きですか?嫌いですか?
以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。
参考文献
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