家庭教師が住み込みで乗り込んだ屋敷には、幼い兄妹と家政婦そして召使い。ところがそこには、いるはずのない人物の姿が。
こんにちは。めくろひょうです。
今回は、「ねじの回転」著:ヘンリー・ジェイムズ 訳:土屋 政雄 (光文社古典新訳文庫)
の作品背景についてお話します。
あらすじ
ある女性の体験談が語られる。彼女が住み込みの家庭教師として赴いた屋敷には、幼い兄妹と家政婦そして召使い。しかし彼女は、正体不明の男を見かける。兄妹を守ろうとする彼女が体験した、世にも恐ろしい物語が始まった。
作品の詳細は、光文社古典新訳文庫のサイトから。
ガヴァネス
「ねじの回転」は心理小説の傑作と言われていますが、私は主人公の職業が「ガヴァネス(家庭教師)」であるという点に注目しました。
ガヴァネスとは
個人の家庭内で子供たちを教育し、訓練するために雇われる女性のこと。
女家庭教師。
Wikipedia
ヴィクトリア朝時代のイギリス中産階級において、居住地の近隣に学校がなく、遠方の寄宿生学校に入学させるより、娘を手元に置いておきたいといった場合、ガヴァネスを雇いました。
ガヴァネスに求められたのは、いわゆる「読み・書き・算術」、また中産階級婦人にふさわしい教養(音楽・ダンス・絵画・フランス語・テーブルマナー等々)の教育でした。
もともと上流階級でおこなわれていたシステムでしたが、徐々に中産階級にも広まったと言われています。
中産階級婦人にするべく教育するわけですから、ガヴァネス側も中産階級でなければなりません。
ですが、片や雇い主、片や雇われ者。
つまり中産階級の中でも、資産がありガヴァネスを雇う上層と、資産がなくガヴァネスとして稼がなければならなかった下層が存在するということです。
中産階級の女性が働くことは「はしたない」とされる社会で、資産はないが教養を身に付けているという中途半端な立場に置かれた彼女たちにとって、ガヴァネスは数少ない自立するため職業だったのです。
また当然ですが、ガヴァネスは下層階級ではありません。
しかし、家事専従の使用人たちからは、自分たちよりは上位の階級だけれども、雇い主からは対等に扱われていないと見られ、軽蔑されていたと言われています。
住み込んだ邸では、ひとりで食事を摂ったとか。
余った女
ヴィクトリア朝時代のイギリスは帝国全盛期であり、適齢期の男性は、世界中に散らばるイギリス植民地に移住したり、また、晩婚化が進んだりといった影響で、独身の男女比は1:1.7と圧倒的に男性が少ない状態でした。
そのような中、独身女性は「余った女」と揶揄される存在になってしまいました。
中流階級出身のレディでありながら、働いて賃金を得なければならない境遇。また、生徒が成長してしまえば職を失う不安定さ。
そして、そこから抜け出す唯一の手段は、激しい競争に勝って手に入れなければならない結婚。
主人公がおかれていた状況は、このように切迫したものだったのです。
ガヴァネスとして資産家の邸に乗り込み、成果を出し、あわよくば雇い主に見初められて、今の境遇から抜け出したい。
果たして彼女の目論見通りに事は進んでいくのか。
彼女が味わう極上の恐怖を、みなさんも味わってみてはいかがですか?
奇跡の人
世界でもっとも有名なガヴァネスといえば、サリヴァン先生こと、アン・サリヴァンでしょうか。
ヘレン・ケラーの教育を担当したガヴァネスです。
ヘレン・ケラーの生涯描いた「奇跡の人」は舞台で上演され、映画化もされています。
「奇跡の人」とはヘレン・ケラーのことだと思っていませんでしたか?
恥ずかしながら私はそう思っていました。
しかし原題は「The Miracle Worker」。
つまり「奇跡の人」はガヴァネスであるアン・サリヴァンを指しているのです。
以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。
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