フランス7月革命前夜。立身出世の野望を抱き、ジュリヤンの孤独な戦いが始まる。
みなさん、こんにちは。めくろひょうです。
今回は、「赤と黒」(スタンダール)の作品背景をご紹介します。
あらすじ
ナポレオン失脚後、王政に戻ったフランス。田舎町で育った製材屋の息子ジュリヤン・ソレルは、ナポレオンを崇拝し、美貌と明晰な頭脳を武器に立身出世の野望を抱く。出世の足掛かりにするべく、貴族である純真な町長夫人、パリでは高慢な侯爵令嬢を誘惑するが、そこには思わぬ落とし穴が。
作品の詳細は、新潮社のHPで。
マリ=アンリ・ベール
スタンダールはペンネームで、本名はマリ=アンリ・ベールと言います。軍に所属していた時に通りかかったドイツの都市シュテンダルからつけたとか。
1783年フランス南東部グルノーブルで、法律家の家庭に生まれました。熱愛していた母親を幼い時に亡くし、その反動から王政を支持する王党派の父親に反発し、共和制を目指す共和主義者になりました。
陸軍士官となってナポレオンのイタリア遠征に参加します。このとき以来、熱烈なイタリアファンになりました。ミラノでの恋愛体験がベースとなった「恋愛論」や、イタリア貴族が主人公の「パルムの僧院」など、代表作にイタリアの影響が見られます。
その後は経理畑の役人として出世しますが、ナポレオンの失脚とともに、スタンダールも職を失ってしまいます。
現在も読み継がれている先述の代表作「恋愛論」や「パルムの僧院」そして「赤と黒」。いずれも中年期以降に発表された作品です。若い頃から戯曲などを執筆していましたが、評価を得ることはありませんでした。遅咲きの作家と言えるでしょう。
スタンダールは生涯独身でしたが、多くの女性と浮名を流した人物でした。あまりモテなかったようですが。
1842年、パリで亡くなり、モンマルトル墓地に葬られました。有名な墓碑銘は「書いた 愛した 生きた」。
タイトルの意味
タイトルの赤と黒は何を意味しているのか?については諸説ありますが、作品の主人公ジュリヤンが目指した軍人(赤)と聖職者(黒)の服の色を意味しているという説や、ルーレットの赤と黒を意味していて、ジュリヤンの一か八かの人生を賭けた勝負を象徴しているという説もあります。
但し、スタンダール自身はタイトルの意味について何のコメントも残していないので、あくまでも推測にすぎませんが。
作品のベースとなった事件
この作品は、実際に起きた犯罪事件をヒントに書かれていると言われています。その事件とは、ベルテ事件です。
フランスのグルノーブルで学ぶ神学生ベルテは、とある家に家庭教師として雇われますが、その家の夫人と恋愛関係になってしまい、これが原因で家庭教師の職を失ってしまいます。懲りないベルテは他の家で家庭教師を務めますが、そこでもその家の娘を誘惑して、前の雇い主である夫人の密告により、解雇されてしまいます。逆恨みをつのらせたベルテは夫人に銃を向けます。
犯罪の是非というより、被支配階級(ブルジョアや一般平民)には、閉塞感のある王政復古下の社会を打破するエネルギーがあるのではないかと感じたのでしょう。
7月革命
この作品には、「1830年代史」という副題がつけられています。1830年はフランスにおいて7月革命が起こった年です。
ナポレオン失脚後のブルボン朝王政によって、王族や貴族が力を盛り返し、自由や平等が抑圧された社会でした。しかし自らの才覚で富を蓄えていったブルジョア層は、旧来の支配層に対する不満を募らせていました。それが爆発したのが7月革命です。
「赤と黒」は革命前夜の支配階級(王族・貴族・聖職者)と被支配階級(ブルジョア)の姿を克明に描き出した作品です。主人公ジュリアンの目を通して、腐敗した支配層を批判しているのです。
To the Happy Few
この作品の末尾に「To the Happy Few」という一文が添えられています。「少数の幸福な人へ」という意味です。
スタンダールの作品は発表当時から高い評価を受けたわけではありませんでした。自分自身も、作品が読まれるようになるのは50年後だろうと考えていたようです。
それでも、「少数の人はこの作品を理解してくれるはずだ、そしてその人たちは幸福だ。」と傲慢ともとれるこの一文には、作品に対する自信が溢れています。
赤と黒
1830年に発表されたこの作品は、サマセット・モームによる「世界の十大小説」にも選ばれたスタンダールの代表作です。
美貌と頭脳を武器に。支配階級に対する嫉妬と憎悪をエネルギーに。ジュリヤンは腐敗した社会に戦いを挑みます。彼の野望に巻き込まれていくレーナル夫人とマチルド嬢。
みなさんは、ジュリヤンを応援しますか?
以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。
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