想い人ジナイーダが恋に落ちた。その相手とは。
みなさん、こんにちは。めくろひょうです。
今回は、「はつ恋」(ツルゲーネフ)の作品背景をご紹介します。
あらすじ
1833年夏。16歳の少年ウラジミールは、隣に引っ越してきた5歳年上の美しい女性、ジナイーダに淡い恋心を抱く。だが、ジナイーダは「こっちで見下ろさなくちゃならないような人は、好きになれないの。わたしの欲しいのは、向こうでこっちを征服してくれるような人。」と言い放つ。彼女は、群がる男達をいいようにあしらって楽しむ女性だった。
だが、そんな状況はある日を境に一変する。彼女が恋に落ちたのだ。
ウラジミールはジナイーダが恋に落ちた相手の正体を知るべく、彼女の家の庭で待ち伏せをする。そして男が現れる。だが、その男の姿を見てウラジミールは愕然とした。何とその男は…。
作品の詳細は、新潮社のHPで。
イワン・セルゲーエヴィチ・ツルゲーネフ
1818年、ロシア中部オリョールで、地主貴族の次男として生まれました。
国内のモスクワ大学、ペテルブルク大学、そしてドイツのベルリン大学で学び、卒業後、内務省で働きますが、1年ほどで退職し、文筆業に専念します。その後、パリに住むなど、西欧とロシアを行き来する生活を送りました。
1847年から雑誌に掲載された代表作「猟人日記」では、悲惨で貧しい農奴の生活を赤裸々に描き、農奴制を批判しました。その結果、逮捕・投獄されてしまいましたが、この作品の影響は大きく、アレクサンドル2世(当時は皇太子、後に皇帝。)が農奴制廃止を決断するきっかけになったと言われています。
その後も、政治的・社会的なテーマを題材とした作品を発表し続けました。
また、パリを中心とした西欧文壇との深い交流を活かし、ロシア文学を西欧へ紹介することに尽力しました。
1883年、パリ郊外で亡くなり、ペテルブルクで国葬が営まれました。
ロシアの農奴制廃止
農奴制とは、領主が農民を奴隷のように領地に縛りつけていた制度です。
農奴に許されていたのは
・家族を成すこと
・家や農作業用の道具などを財産として所有すること
・自らが耕した土地の占有権を子に相続させること
だけであり、領地外への転居や職業選択の自由は認められておらず、生涯身分が変わることはありませんでした。
当時のヨーロッパ諸国はこうした封建的制度の廃止による近代化を進めており、ロシアは後れをとっていました。
1861年に皇帝アレクサンドル2世が発した農奴解放令は、旧体制を破壊し新体制を築くことになり、社会に大きな混乱を巻き起こしました。
ドストエフスキー、トルストイ、そしてツルゲーネフ。ロシアを代表する文豪が、まさにこの混乱の時期に活躍したのは、偶然ではないのかもしれません。
ツルゲーネフの父親像
主人公ウラジミールの父親は重要な登場人物ですが、ツルゲーネフの父親がモデルで、美男子でしたが妻(ツルゲーネフの母)に対して冷淡で、浮気を繰り返したそうです。しかも妻は裕福な家柄出身で、金銭目当ての結婚だったとか。
ウラジミールは父親に対し、畏敬の念を抱いています。時には畏れの対象であり、時には尊敬の対象です。近寄りたいけれど、近寄りがたい。巨大な存在なのです。
作品中、ウラジミールは父親からこんな言葉を掛けられます。「女の愛を恐れよ。かの幸を、かの毒を恐れよ。」実際にツルゲーネフが父親から言われた言葉だそうです。
この言葉の影響があったのか定かではありませんが、ツルゲーネフは生涯独身でした。
初恋
農奴解放令発布直前に発表された「はつ恋」。社会問題に鋭い批判の目を向けたツルゲーネフの作品群の中では、異色ともいえるピュアなラブストーリーで、自身の体験をベースに書かれた作品です。
中年期を迎えた男が、初恋を回想するという形で描かれていて、少年時代の想い、そして大人になった現在の想い。どちらも感じることができる作品です。
誰もが通る初恋という道。男として超えなければならない父親という存在。
ツルゲーネフ自身が最も愛した作品という「はつ恋」。
みなさんも、ご自分の初恋に思いを馳せてみませんか?
以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。
オーディオブックで楽しむこともできます。
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