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【作品背景】ひと夏の出来事「悲しみよ こんにちは」(フランソワーズ・サガン)

フランス文学
Dejan DodicによるPixabayからの画像

戦後フランスに一大センセーションを巻き起こしたサガンの処女作。17歳の少女セシルがコート・ダジュールの別荘で過ごした一夏を描く。

みなさん、こんにちは。めくろひょうです。

今回は、「悲しみよ こんにちは」(フランソワーズ・サガン)の作品背景をご紹介します。

あらすじ

もうすぐ18歳になるセシルは、少女から女性に変わる多感な時期。大好きな父レエモン、父の愛人エルザとともに、コート・ダジュールの別荘でヴァカンスを楽しんでいた。セシルは近くの別荘に滞在している大学生のシリルと恋仲になる。そんな彼らの別荘に、すでになくなっている母の旧友アンヌがやってくる。聡明で美しい大人の女性アンヌに、セシルは魅力を感じていたが、父とアンヌが再婚する雰囲気を感じ取ったセシルは、ふたりの気楽な生活が失われ、父を取られてしまうのではないかという恐怖に怯えるようになる。セシルは、父とアンヌの再婚を阻止する計画を立てるが。
20世紀仏文学界が生んだ少女小説の聖典。

作品の詳細は新潮文庫のHPで。

フランソワーズ・サガン、河野万里子/訳 『悲しみよ こんにちは』 | 新潮社
セシルはもうすぐ18歳。プレイボーイ肌の父レイモン、その恋人エルザと、南仏の海辺の別荘でヴァカンスを過ごすことになる。そこで大学生のシリルとの恋も芽生えるが、父のもうひとりのガールフレンドであるアンヌが合流。父が彼女との

フランソワーズ・コワレ

ペンネームの「サガン」は、マルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」の登場人物 「サガン大公妃Princesse de Sagan」からヒントを得たと言われています。

1935年、フランス南西部ロット県で生まれました。父親は大企業の重役、母親は地主というブルジョワ家庭で育ちます。第二次世界大戦中はフランス各地に疎開し、大戦終結後、家族でパリに移ります。

学校生活が好きではなかったようで、パリ市内の学校を転々とした後、フランス南東部ドーフィネ地方(現在のイゼール県、ドローム県、オート=アルプ県)の学校で過ごし、最終的にパリに戻ります。バカロレア(高等学校教育修了認証試験)に合格し、1952年にソルボンヌ大学に入学。大学在学中に「悲しみよ こんにちは」の執筆に着手します。

「悲しみよこんにちは」フランス語版表紙
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知人に紹介された出版社に「悲しみよ こんにちは」の原稿を持ち込み、1954年に出版されました。この作品は、フランスの文学賞・批評家賞(プリ・デ・クリティック)を受賞し、ベストセラーとなりました。

若くして成功し名声を得たサガンは、パリのサン=ジェルマン=デ=プレ地区で多くの名士たちと交遊しました。人々はサガンとセシルを重ね合わせ、裕福でわがままな私生活に注目しました。ノーベル文学賞受賞作家フランソワ・モーリヤックは、彼女を「魅力的な小悪魔」と称したそうです。

Photo by Filip Mishevski on Unsplash

しかし、若くして裕福になったため、薬物やアルコールに溺れ、ギャンブルに熱中するなど、浪費癖から抜け出せず、晩年には苦しい生活を送りました。コカイン所持で逮捕されたり、脱税で多額の罰金や追徴課税を支払うこともありました。2度結婚しますが、いずれも離婚。バイセクシャルとも言われ、夫以外にも男女両方の愛人がいたとか。

作品に対する評価とは別に、私生活のスキャンダルを採り上げられることが多かったようです。

晩年は、ノルマンディ地方の別荘で暮らし、2004年、心臓疾患で亡くなりました。69歳でした。

戦後フランス社会に与えた影響

「悲しみよ こんにちは」が発表された当時のフランス社会は、第二次世界大戦後の復興期にありました。国民は新たな生活を始めるために必死に働いていましたが、同時に、戦争によって引き起こされた傷跡や、従来の価値観が崩壊したことによる混乱も抱えていました。このような状況下で、若者たちは自分たちのアイデンティティを見つけるために、もがいていました。

「悲しみよ こんにちは」は、そうした若者たちの内面を赤裸々に描いた作品であり、彼らの共感を呼び起こしました。若者たちは、従来の価値観に縛られずに自由な生き方を模索することを求め、同時に、自分たちの内面を深く掘り下げることで、人生の意味や目的を見出そうとしていました。サガンは、セシルを通じて、このような若者たちの心情を巧みに描き出したのです。

愛と同じくらい孤独

若き日の対談集「愛と同じくらい孤独」では以下のような人生観を披露しています。

・お金は今の社会では防衛手段であり、自由になれる手段です
・わたしは人の持つ安心感や人を落ち着かせるものが大嫌いです。精神的にも肉体的にでも、過剰なものがあると休まるのです。
・わたしは孤独が好きです、でも他人には愛を感じていますし、好きな人にはとても興味を持っています。

「愛と同じくらい孤独」(新潮文庫・朝吹由紀子訳)

彼女が幸福な人生を送ったのかはわかりませんが、遺した作品はいまだに色褪せません。以前は20冊近くラインナップされていた新潮文庫で、現在新刊で入手できるのは「悲しみよ こんにちは」と「ブラームスはお好き」の2冊だけになってしまいました。それ以外の作品を古本屋で見掛けたら、ぜひ手に取ってみてください。

新潮文庫版の翻訳を担当した河野万里子氏は、あとがきに、サガンの言葉を記しています。

「声をもっている作家というものがいて、それは一行目から聞こえてくる。」

みなさん、サガンの声が聞こえますか。

以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。

映像化作品

1958年 アメリカ・イギリス合作作品
監督:オットー・プレミンジャー
出演:デボラ・カー デヴィッド・ニーヴン ジーン・セバーグ
セシルを演じたジーン・セバーグのショートカットは「セシルカット」と呼ばれ大ブームになった。

Bitly

サガン波乱万丈の人生を描いた伝記映画
「サガン 悲しみよ こんにち」2008年 フランス映画
監督:ディアーヌ・キュリス 出演:シルヴィ・テステュー

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