大胆な性描写?この作品の本質はそこではありません。産業革命後のイギリス炭鉱における資本家と労働者の軋轢を、瑞々しく、そして美しい文章で描いた作品です。
みなさん、こんにちは。めくろひょうです。
今回は、「チャタレイ夫人の恋人」(D・H・ロレンス)の作品背景をご紹介します。
あらすじ
第一次世界大戦の戦傷により下半身不随となった夫クリフォード・チャタレイ卿と、領地である炭鉱の村に暮らすコニー。チャタレイ家の跡継ぎを望むクリフォードは、コニーに、自分たちと同じ貴族階級の男性と子供を作るように勧めるが、コニーが心を寄せたのは、領地の森番をしているメラーズだった。
作品の詳細は、新潮文庫のHPで。
猥褻文書
そもそも本国イギリスで問題視されたのは、性描写の部分ではなく、身分違いの恋愛関係でした。
階級社会のイギリスにおいて、タブー視されたのはその点です。
やがて性描写に注目が集まり、ロレンスは、その部分を削除した修正版を出版することになります。
後に無修正版が出版され、猥褻文書として告訴されますが、無罪となります。
日本においては、まず1935年に修正版(伊藤整訳)が出版され、1950年に無修正版(伊藤整訳)が出版されます。
この無修正版は警視庁に摘発され発禁処分になり、1957年最高裁判所で敗訴が確定し絶版になりました。
読んでいただければわかりますが、猥褻文書ではありませんし、作品の本質ではないと思います。
イギリスの炭鉱
産業革命の原動力となった石炭を採掘する炭鉱業は非常に重要な産業でした。
第1次世界大戦以前、世界に流通していた石炭の60%はイギリスで採掘されたものだったといわれています。
当時、就業男性人口の10%もの人たちが炭鉱業に従事していたそうです。
しかし、炭鉱における労働環境は劣悪なものであり、極めて危険な作業に従事していたにもかかわらず、低賃金でした。
20世紀最大のゼネラルストライキといわれる1926年に勃発したイギリスでのゼネラルストライキは、こうした炭鉱労働者の待遇に起因する部分が少なくありません。
D・H・ロレンス
ロレンスの父親は炭鉱夫でした。そのため幼少期はノッティンガムシャー州の炭鉱町で過ごしました。
1926年のゼネラルストライキにおける炭鉱労働者とその家族の様子を目の当たりにしたロレンスは、悲惨な炭鉱労働者と利益を搾取する資本家をテーマに作品を描きました。
それが「チャタレイ夫人の恋人」です。
資本家と労働者の軋轢が顕在化したイギリス社会。貴族階級のコニーが恋に落ちた相手は労働者階級のメラーズでした。
ロレンスは、イギリスの風景や、コニーそして周囲の人たちを、とても瑞々しい文章で綴り、物語を紡いでいきます。
原文で読んだわけではありませんので、訳者の方の文章力かも知れませんが。
長編ではありますが、とても読みやすい文章なので、イギリスの風景を感じながら、是非読んでみて欲しいと思います。
以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。
危険な炭鉱労働現場の写真が、絵葉書として20世紀初頭のイギリスで流通したそうです。
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