記事内に広告が含まれています

【作品背景】マイフェアレディ「ピグマリオン」(バーナード・ショー)

アイルランド文学

こんにちは。めくろひょうです。

わずか100年前。イギリスにおける階級社会・女性差別とは。

今日は、アイルランド出身のノーベル文学賞受賞作家ジョージ・バーナード・ショーの代表作「ピグマリオン」の作品背景についてお話します。

あらすじ

言語学者ヒギンズはピカリング大佐と賭けをする。がさつな態度、乱暴な言葉遣いの花売り娘イライザを、大使館の園遊会に参加させても「レディ」とみなされるようなレベルまで矯正することが出来るかを。ヒギンズの厳しいレッスンに取り組んだイライザは、「レディ」になれるのか。

作品の詳細は、光文社古典新訳文庫のサイトから。作品紹介文が読書欲をそそります。

ピグマリオン - 光文社古典新訳文庫
強烈なロンドン訛りを持つ花売り娘イライザに、たった6カ月で貴族のお嬢様のような話し方を身につけさせることは可能なのだろうか。言語学者のヒギンズと盟友ピカリング大佐の試みは成功を収めるものの……。

ピグマリオン

タイトルのピグマリオンは、ギリシア神話に由来しています。キプロス島の王様・ピグマリオンは、現実の女性に失望し、理想とする女性の像を作ります。やがて彼はその像に恋してしまい、人間になることを願いました。彼の愛があまりにも純粋だったため、女神アフロディーテがその像を本物の女性に変え、ふたりは結婚したという物語です。ここからピグマリオンコンプレックス(人形偏愛症)という心理学用語が生まれました。

特徴としては、理想を追求すること、他者を自分の理想通りにしたい願望を持つことなどが挙げられます。そして自分の理想通りにならないと不満や失望を感じるという弊害を起こします。まさに本作のストーリーの骨格を成す考え方ですね。

ジョージ・バーナード・ショー

1856年、アイルランド・ダブリンで生まれました。スコットランド貴族の家系で、父親は商人でした。
ダブリンで商人階級の学校で学業を修めます。その間、アイルランド国立美術館に通い芸術作品に親しみました。

1876年、ロンドンで音楽教師をしていた母親のもとに移り、執筆活動を始めますが、成功するには至りませんでした。大英博物館に通って知識を深めるとともに、後にイギリス労働党の前身となるフェビアン協会の会員として、社会主義思想に傾倒していきます。

社会主義雑誌への寄稿や、各種雑誌に書評・音楽批評・劇評などの掲載を通じ、徐々にその才能を認められていきます。ショーを高く評価していた劇作家ウィリアム・アーチャーとの合作をはじめ、戯曲の執筆に注力するようになります。1912年に完成した戯曲「ピグマリオン」は1913年に初演され、イギリスに留まらず、世界中でヒットしました。

創作活動に加えて、フェビアン協会での政治活動や、貧困、教育の不平等、女性の権利などの改善に取り組みました。1925年、ノーベル文学賞を受賞しますが、賞金は寄付したそうです。

また、菜食主義者としても知られ、85歳の時、「もうかなり長く生きたので、そろそろ死のうかと思っているのだが、なかなか死ねない。ビーフステーキを食べれば、ひと思いに死ねると思うのだが、私には動物の死体を食べるような趣味はない。」とコメントしたとか。

1950年、94歳で死去。遺言によって、遺灰は、先立った妻シャーロットの遺灰とともに、自宅の庭に撒かれました。

階級は発音でわかる

本作の主要なテーマである言葉(発音)と階級。イギリスでは「Hello」をどのように発音するかで、その人の生まれや育ちがわかってしまうそうです。つまり、英語の発音やアクセントと階級が密接に結びついているのが、イギリス英語の特徴。

イギリスは、言わずと知れた階級社会で、ざっくり言うと、労働者階級、中産階級、上流階級の3つに分類されます。イギリスでは、この階級ごとに、住む場所や買い物をする店、仕事帰りに立ち寄るパブ、進学する大学や購読する新聞などが異なっているようです。イギリスに詳しい方、現在でもこの名残はあるのでしょうか?私自身がロンドンに旅行した際には、当然ながら、全くわかりませんでした。

中でも、「発音」は明らかに違っていて、その人がどの階級なのか、すぐにわかってしまうとのこと。

イギリスが誇る名門校オックスフォード・ケンブリッジ両大学関係者が使用する英語である「オックスブリッジ英語」は、文法や語彙全般にわたって特徴があり、発音については、「オックスブリッジ・アクセント」と呼ばれていて、伝統的な標準発音とされているようです。国営放送BBCで使われる英語も、これに準ずるとのこと。

イギリス社会が、人の生まれや育ちなどの背景を、発音で判断することを示すエピソードがあります。

元首相であるサッチャー氏は、商家の生まれ。つまり、中産階級出身でありながら、オックスフォード大学に進学した人物です。そのため英語の発音にコンプレックスを持っていて、個人教授について発音を徹底的に矯正したそうです。サッチャー氏が所属していた保守党は、上層中産階級や上流階級を支持基盤としていたため、どうしても自分の立場にふさわしい発音を身につけなければならなかったのでしょう。

ちなみに、イギリスの人気俳優ヒュー・グラント氏はオックスフォード大学卒で、発音は「オックスブリッジ・アクセント」。彼の出演している作品では「ノッティングヒルの恋人」や「ラブアクチュアリー」が好きです。発音を意識しながら、もう一度観てみたいと思います。

女性差別

イギリスでは、
・1882年まで結婚した女性に財産権が認められなかった
・女性参政権が行使されたのは1918年(但し、30歳以上の戸主のみ。その条件が撤廃され、男女平等の普通選挙権になったのは、10年後の1928年)
「(財産を持っている)父親や夫に面倒を見られている身なのに、なぜ選挙権が必要なのか」という考えが堂々とまかり通っていたようです。

この時代の女性たちは「自立して生きていくことが不可能」だったのです。

その制度が、大きく変化する契機になったのが、第一次世界大戦です。男性が戦場に狩り出されていった結果、不足した労働力を女性が補うことになりました。その結果、女性たちは、男性と遜色なく仕事ができることに自信をもち、女性の社会進出が大きな流れになっていきました。

さて、女性たちが労働で得た賃金はどうなるのでしょうか?

従来であれば「父親や夫の管理」でしたが、不幸にして父親や夫が戦争で亡くなってしまうことが想定されます。つまり「女性も財産権を持ち、自分の賃金で生活できるようにする」しかなかったのです。

女性が、男性と同等の権利を得るためには、社会的な義務を引き受けることが前提です。つまり「男性と同等に仕事ができるから自分たちも財産権が欲しい」「財産権を得たら納税等の社会的義務を果たす」ことによって、男女平等を勝ち取っていくのです。

マイ・フェア・レディ

「ピグマリオン」は、1913年のウィーンを皮切りに、ロンドンやニューヨークで公演され、大成功を収めました。その後、映画やミュージカルとしてもアレンジされ、「ピグマリオン」というタイトルは知らなくても、「マイ・フェア・レディ」というタイトルは、みなさんご存知かと思います。

ジュリー・アンドリュースによるミュージカル版(1956年)、オードリー・ヘップバーンによる映画版(1964年)。いずれも、この「ピグマリオン」が原作です。但し、原作とミュージカル版・映画版は、最も重要なエンディングが異なります。著者であるバーナード・ショーが描いたエンディングは、芝居初演当時の上述のような社会情勢をふまえて、イギリスにおける階級社会や女性の自立といったテーマを包含しています。しかしミュージカルや映画は、エンターテインメントとして観客を楽しませることを目的としているため、原作とは異なるエンディングが設定されたのです。

舞台公演時からエンディングについては賛否両論あり物議を醸しましたが、バーナード・ショーはあくまでも原作にこだわりました。社会主義思想を持ち、階級社会や不平等に対して鋭い批判を展開したバーナード・ショーは、言語や教育を通じて社会を変えられるというメッセージを本作に込めました。みなさんは、どちらがお好みですか?

ちなみにミュージカルや映画は、バーナード・ショーの死後に上演・上映されています。

以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。

W受賞

ノーベル賞(文学賞)とアカデミー賞(映画版「ピグマリオン」脚色賞)の両方を受賞した人物は、現在のところバーナード・ショーだけ

ピグマリオン(字幕版)」「マイフェアレディ(字幕版)」はAmazonプライムビデオで観ることができます。

【追悼】神田沙也加さん

悲しすぎるニュースが飛び込んできました。

まさに今、札幌市民交流プラザで公演中だった「マイ・フェア・レディ」にイライザ役で出演していた神田沙也加さんの訃報が飛び込んできました。

プロフィールにも記載していますが、私は聖子ちゃんとともに青春時代を過ごしてきた世代です。サプライズで沙也加ちゃんが登場した「2010-2011カウントダウンライブ」にも行きました。

ただただ悲しく、ただただ残念でなりません。

心よりご冥福をお祈りします。

コメント