【作品背景】画家という不思議な生き物「月と六ペンス」(モーム)

イギリス文学
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絵に生命を捧げた男の情熱と狂気。彼の眼は何を見ていたのか。

みなさん、こんにちは。めくろひょうです。
今回は、「月と六ペンス」(サマセット・モーム)の作品背景をご紹介します。

あらすじ

イギリス。駆け出し作家の私。証券会社に勤めている平凡な中年男・ストリックランドと知り合う。やがてストリックランドは、家族を残して失踪。彼の妻からの頼みで、ストリックランドの消息をつかむため、私はパリへ。

ようやく見つけたストリックランドは、薄汚いアトリエで失踪の理由をこう語った。「絵を描くために全てを捨てた」。やがて私は、絵に生命を捧げた男の情熱と狂気を見ることになる。

作品の詳細は新潮社のHPで。

サマセット・モーム、金原瑞人/訳 『月と六ペンス』 | 新潮社
ある夕食会で出会った、冴えない男ストリックランド。ロンドンで、仕事、家庭と何不自由ない暮らしを送っていた彼がある日、忽然と行方をくらませたという。パリで再会した彼の口から真相を聞いたとき、私は耳を疑った。四十をすぎた男が

ウィリアム・サマセット・モーム

両親ともにイギリス人でしたが、父親がパリのイギリス大使館に勤務していたため、パリで生まれました。1874年1月25日のことです。

幼い頃、父母を相次いで亡くし、牧師をしていた叔父に引き取られ、イギリスにもどります。パリ育ちだったため、英語をうまく話せず、学校では苦労したそうです。また、吃音症だったためいじめにあい、トラウマになりました。

サマセット・モーム
米国議会図書館のカールヴァンヴェクテン写真コレクション

そのため、人と接する仕事には向かないと考え、文学を志しますが、結局ロンドンの医学校に進学します。そして、牧師になることを勧めていた叔父とは、不仲になってしまいました。

1897年、医学校を卒業し、医師の資格を得ます。しかし、作家への夢をあきらめず、作品を発表し続けますが、評価を得ることはできませんでした。

ヨーロッパ各地を訪れながら戯曲を書き上げ、劇作家としての評価を積み上げていきます。

第一次世界大戦中は医師として野戦病院に勤務。その後、劇作家でありながら、イギリスの諜報機関にも所属し、スイスでスパイ活動をおこないました。

戦後、南太平洋の島々を旅行し、その際に「月と六ペンス」の構想を練ったといわれています。
1919年に出版された「月と六ペンス」は、アメリカでベストセラーとなり、世界的な評価を得ることになりました。

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第二次世界大戦がはじまるまでの間に、数々の小説や戯曲を発表し、大衆作家としての地位を確固たるものにしました。この時期、世界で最も原稿料の高い作家といわれたそうです。

第二次世界大戦初期には、当時拠点としていたパリからロンドンに移り、その後アメリカに渡りました。戦後、1948年に出版した作品を最後に小説の執筆を絶ち、評論などを執筆しました。

老いてもなお精力的に世界中を旅したモームは、1959年に日本を訪れ、約1か月におよぶ滞在期間中に、日本の英文学者たちと交流したそうです。

1965年入院していた病院から、自らの意志で自宅に戻り、生涯を終えました。91歳でした。

ウジェーヌ・アンリ・ポール・ゴーギャン

本作品のモデルとなったといわれているポスト印象派の画家ゴーギャン。

パリで生まれ育ち、証券会社で働いていましたが、趣味で始めた絵画に魅せられ、徐々にのめりこんでいきます。印象派展に出品したりしていましたが、高い評価を得ることはありませんでした。当時の画家、セザンヌやゴッホと交流を持ちながら、徐々に自らの画風を確立していきます。

彼の方向性を決定づけたのは、タヒチ島滞在です。ポリネシア独特の生態や文化に触れ、この地で、後に傑作といわれる作品の多くを描き上げていきます。

「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」ポール・ゴーギャン
パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.

本作品の主人公ストリックランドが、そのままゴーギャンであるわけではありませんが、ゴーギャンの生き様に、モームが大いに興味をそそられたのは間違いないでしょう。

大衆作家モーム

モームは大衆作家・通俗作家と呼ばれました。それは、重厚な文章を紡ぎだし難解な文体による芸術至高の作家と比較して一段下の評価しか受けていないことを意味します。
しかしモームは、小説において最も重要なのはストーリーであり、面白い作品が自分の文学であるとしました。

晩年に執筆された「世界の十大小説」は、色褪せることのない世界最高峰の小説を、わかりやすく解説したガイドブックです。その中でモームは「小説は楽しくなければならない」と記しています。

長編小説・短編小説、そして戯曲。読者を楽しませるために、多くの作品を精力的に発表しました。

月(理想)と六ペンス(現実)

この作品中には「月」も「六ペンス」も出てきません。タイトルになっている以上、重要な意味があると思うのですが、モームはこのことについて何も語っていません。諸説あるようですが、作品の内容を鑑みると「月」は夢や理想といった手の届かいないものの象徴、「六ペンス」は現実や日常といった手の届くものの象徴、という説が、私はしっくりきました。

稀代のストーリーテラー・モームが描き出す狂気の芸術家。彼を全く理解できない周囲の人々。相まみえることのない「月」と「六ペンス」。

ゴーギャンの画集を手元に置きながら、ストリックランドの傍若無人ぶりを楽しんでください。

以上、めくろひょうでした。ごきげんよう。

モームについて詳しくお知りになりたい方は、「日本モーム協会」のHPがおすすめです。

日本モーム協会
「日本モーム協会」の公式ブログです。講演会や協会誌の発行など会員向け情報のほか、新訳の発行など一般のモームファンにも耳よりな情報を提供しています。

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